日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #56

貴乃花関の「ふるなびテレビCM」あえて音程をハズして歌う姿を出す狙いとは?

 

IKEAトイレブラシは、水が飲めるほど美しい湖の名称


 通常であればネガティブな事柄を活用して、みごとな広告コミュニケーションに昇華している例は、海外でも時折見られます。そうした事例として今回は、スウェーデン観光局の「ビジット・ジ・オリジナルズ」をご紹介しましょう。この広告コミュニケーションは、2022年カンヌライオンズで、クリエイティブ・ストラテジー部門ゴールドなどを受賞しています。

 そのプロモーション動画は、スウェーデン観光局の職員と思われる女性の語りで始まります。バックに見えるのは、美しい湖の風景です。「Bolmenという名前を聞いた時に、スウェーデンにある美しい湖を思い浮かべる人は多くありません。多くの人が思い浮かべるのは…」と一呼吸おいて、大きく映し出されるのは、トイレブラシの画像です。「トイレブラシなのです」と嘆いてみせてから、女性の話は続きます。「IKEAはこの美しい湖の名前を、トイレブラシに付けているのです」

 カップを持ち出して、湖水を直接すくって飲みながら、彼女は語り続けます。「IKEAは商品名として、多くの美しいスウェーデンの地名を借りています。例えばEktopというベストセラーとなっている椅子は、ストックホルム郊外の地名から名づけられています。棚からゴミ箱まで、何百という商品に美しいスウェーデンの名前が使われているのです。ゴミ箱まで…」
 
「ビジット・ジ・オリジナルズ」のプロモーション・ビデオ
 
 そして、毅然として言うのです。

「皆さん、その名前でIKEAの商品を思い出すのはやめて、オリジナルを訪問してください!」

 つまり、Bolmenという名前でトイレブラシを思い浮かべるのではなく、オリジナルであるスウェーデンの美しい湖を訪れてください、というメッセージです。

 資料によれば、Bolmen(湖の方)では、このプロモーションの一環として、「Bolmenは、IKEAのトイレブラシ以上です」という新しいキャッチフレーズを考案。地元の政治家、住民、メディアが参加して、そのお披露目のイベントまで開催したそうです。

「逆手に取る」という方法論は、広告コミュニケーション企画時には、比較的頻繁に検討されるやり方です。王道のやり方で挑んで見てもなかなか成果が見えづらい時には、何かネガティブな事柄に焦点を当てて、逆手に取ることにトライてみると、意外と活路が見えて来るかもしれませんよ。
他の連載記事:
日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く の記事一覧
  • 前のページ
  • 1
  • 2

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録