TOP PLAYER INTERVIEW #85
欧米でB2Bマーケターが消える…? B2Bマーケ一筋35年・シンフォニーマーケティング 庭山一郎氏が見通す日本の生存戦略
2025/02/06
- B2B,
世界的な景気後退と日常に浸透する生成AI。その波は日本企業にも波及しようとしている。世界に比べて大幅に遅れていると指摘される日本のB2Bマーケティングに生き残る術はあるのか?
Agenda noteは、B2Bマーケティングが日本でほとんど認識されていなかった1990年に創業し、多くの企業のB2Bマーケティングを支援してきたシンフォニーマーケティングの代表取締役 庭山一郎氏にインタビュー。B2Bマーケティングを巡る欧米の最新動向から、日本のB2B企業が直面する課題、その解決策を前後編にわたり語ってもらった。
Agenda noteは、B2Bマーケティングが日本でほとんど認識されていなかった1990年に創業し、多くの企業のB2Bマーケティングを支援してきたシンフォニーマーケティングの代表取締役 庭山一郎氏にインタビュー。B2Bマーケティングを巡る欧米の最新動向から、日本のB2B企業が直面する課題、その解決策を前後編にわたり語ってもらった。
B2Bマーケターを覆う不景気とAI、そしてABMの波
―― 近年のB2Bマーケティングの海外における潮流と、その変化が日本にどのような影響を及ぼしているとお考えになるでしょうか。
いくつか複合的なものがあります。私はマーケティング歴が40年を超え、B2Bマーケティングに特化した会社をつくってからは35年になりますが、創業当時のノウハウは全て米国あるいは欧州にあり、そのノウハウを日本風にアレンジしてやってきました。そのため海外のマーケティングのエージェンシーやファームの方とも、日本人で一番付き合いがあるのは私だと思っています。
そんな私から見た近年の欧米のB2Bマーケティングの潮流をお話すると、まず大きく2つの背景があります。ひとつは不景気です。過去3年ほどで米国のB2Bマーケターは約10万人が職を失っています。企業内のマーケターも、マーケティングサービス会社のマーケターも、酷い時は毎日のようにLinkedInで「辞めました」「クビになりました」「新しいチャンスがあったら紹介してください」といった連絡をしてきました。
―― 景気後退が生々しく実感されますね。
もうひとつは生成AIの普及です。AIに仕事を取られてしまった人は結構います。米国は大体、5~6年に一度景気の波があり、マーケティングは早めに切られがちな部署でした。それでも、今まではすぐに復帰したり、社内のマーケティングメンバーが半減されても、その分外注されたマーケティングエージェンシーにリストラされた人が吸収されたりして、循環がありましたが、今回はその循環がなくなっています。つまり、人を減らしてAIで代用させたりしているのです。
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庭山 一郎 氏
プロフェッショナルB2Bマーケター、大学教授、経営者、作家、ナチュラリスト
1990年シンフォニーマーケティング株式会社を設立。35年間で約600社の企業に対しB2Bマーケティングのコンサルティングを手がける。各産業の大手企業を中心に国内・海外向けのマーケティング&セールスの戦略立案、組織再編、人材育成などのサービスを提供。海外のB2Bマーケティング関係者との交流も深く、世界最先端のマーケティングを日本に紹介している。ライフワークとして、「シンフォニーの森の再生」に取り組む。中央大学大学院ビジネススクール客員教授、早稲田大学大学院 WASEDA NEO 講師、IDN(InterDirect Network)理事、「日経クロストレンド BtoBマーケティング大賞2024・2025」審査委員長。著書に『儲けの科学 The B2B Marketing』(日経BP社)、『BtoBマーケティング偏差値UP』(日経BP社)、『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)』(日経BP社)、『BtoBのためのマーケティングオートメーション 正しい選び方・使い方』(翔泳社)、『サラサラ読めるのにジワッとしみる「マーケティング」のきほん』(翔泳社)、『ノヤン先生のマーケティング学』(翔泳社)など多数。
プロフェッショナルB2Bマーケター、大学教授、経営者、作家、ナチュラリスト
1990年シンフォニーマーケティング株式会社を設立。35年間で約600社の企業に対しB2Bマーケティングのコンサルティングを手がける。各産業の大手企業を中心に国内・海外向けのマーケティング&セールスの戦略立案、組織再編、人材育成などのサービスを提供。海外のB2Bマーケティング関係者との交流も深く、世界最先端のマーケティングを日本に紹介している。ライフワークとして、「シンフォニーの森の再生」に取り組む。中央大学大学院ビジネススクール客員教授、早稲田大学大学院 WASEDA NEO 講師、IDN(InterDirect Network)理事、「日経クロストレンド BtoBマーケティング大賞2024・2025」審査委員長。著書に『儲けの科学 The B2B Marketing』(日経BP社)、『BtoBマーケティング偏差値UP』(日経BP社)、『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)』(日経BP社)、『BtoBのためのマーケティングオートメーション 正しい選び方・使い方』(翔泳社)、『サラサラ読めるのにジワッとしみる「マーケティング」のきほん』(翔泳社)、『ノヤン先生のマーケティング学』(翔泳社)など多数。
―― AIの浸透がマーケター削減に拍車をかけているのですね。
はい。同時に「アカウントベースドマーケティング(ABM)」も普及しつつあります。これは要するに顧客の数を絞るというものです。
ABMは欧米のB2Bマーケティングのメインストリームになりつつあり、日本では完全にABMに振り切ろうという方針を決めた外資系B2B企業もあります。たとえば日本に1000社の顧客がいるなら、これまでは各企業の営業やサポートの担当者100人が社内にいましたが、このうち60人をリストラして、顧客も100社に絞り込み、残り40人で100社をサポートすることにします。すると1人で10社見ていた時よりも手厚いサービスをできるようになります。残りの900社は、言い方は悪いですが「放置」です。
顧客を増やすと対応する社員も増やさなければならず、経費が激増します。それによって、たとえ売上は上がっても利益は逓減します。売上はさまざまな計算式で表されますが、最もシンプルなのは「客数×単価」です。客数を増やさず、年間取引額を増やせば、経費は増えず利益は増大します。重要顧客との取引を最大化するのがABMの考え方です。
ABMは通常、イノベーションが止まると起きやすくなりますが、今回はAIのイノベーションと不景気が複合的に重なってABMの流れを生み出しているのがこれまでとの違いです。私が知っている米国のマーケティングエージェンシーもここ3年ほどで7割方が買収や合併で姿を消しており、非常なリセッション(景気後退)の波を感じます。そしてこの波は確実に日本にも波及してきています。グローバルな予算が削られることになるので、顧客に外資系が多い日本企業も時間差はあれど、直撃を受けているはずです。
この波は日本でも、B2Bマーケティング支援企業が大企業に吸収されたり、SaaS企業の経営層が交代したりといった業界再編を促しています。こういった変化の中で、日本でも遂にABMが本格的に行われ始めるという見方をしています。
―― ABMは日本企業にとって打開策となるのでしょうか。
少なくとも日本の大手B2B企業にとって、特に国内向けの効果的な戦略はABMに限ると考えます。
日本では売上に貢献する顧客も、そうでもない顧客も同等に大事にする文化があります。それは日本の美徳ですが、グローバル市場に対峙したとき、よりシビアな世界で戦う外資系企業に太刀打ちできない要因になっています。売上500億円を生み出す顧客と、500万円を生み出す顧客とで同等に手間をかけたら、恐らく後者は赤字です。
赤字を生み出す顧客には、相応の対応になるのは当然というのが欧米企業の考え方ですが、彼らも何も最初からそこまでドライだったわけではありません。有名な「パレートの法則」が示すように、計算したら判明したことです。売上利益の上位10%の企業が8~9割を稼いでいるケースがほとんどなので、他の顧客がよしんば解約になっても、実は利益にはそれほど影響がないのです。
実は日本の、特に製造業ではこの傾向が顕著です。取引のある顧客は3000社いたとしても売上上位3社で売上90%といった会社は普通に存在します。だったら、そこを思い切り大事にするのは、事業成長のために必須の合理的判断と言えます。