TOP PLAYER INTERVIEW #87

AI時代にB2Bマーケターは生き残れるか? 庭山一郎氏が語る日本のB2Bマーケティングに潜む根深い問題

前回の記事:
欧米でB2Bマーケターが消える…? B2Bマーケ一筋35年・シンフォニーマーケティング 庭山一郎氏が見通す日本の生存戦略
 世界的な景気後退と日常に浸透する生成AI。その波は日本企業にも波及しようとしている。世界に比べて大幅に遅れていると指摘される日本のB2Bマーケティングに生き残る術はあるのか?

 Agenda noteは、B2Bマーケティングが日本でほとんど認識されていなかった1990年に創業し、多くの企業のB2Bマーケティングを支援してきたシンフォニーマーケティング(東京)の代表取締役 庭山一郎氏にインタビュー。

 顧客企業を絞り込むABM(アカウントべースドマーケティング)に活路を見出す業界の最新動向に迫った前編に続き、後編では日本のB2Bマーケティングを巡る根深い課題と、AI時代のマーケターが価値を発揮するための方策を聞いた。
 

B2B企業のウェイクアップコール


―― 前編では、日本のB2B企業ではマーケティングが必要なかったとお話されました。そこから現在のようにマーケティングが重視されるようになったのはなぜなのでしょうか。

 欧米に比べてマーケティングの概念がない日本企業に危機感を抱き、シンフォニーマーケティングを創業したのは1990年です。すごく頑張って営業して、ようやく社内勉強会に呼んでもらっても「これからはそういう考えも大事だよね。じゃあ、何かあったら」と言われて終わり。我々は売上が取れず、あっという間に倒産寸前になりました。

 その時に救ってくれたのが外資系企業でした。日本に進出したい外資系のITやハイテク企業が、世界中にあるはずのB2B専門のマーケティングサービス会社が日本にはないと気づき、私の会社を探し当てたのです。その流れで世界的企業から仕事をいただけるようになりました。そのおかげで私たちは生き延びられたし、グローバルで最先端のB2Bマーケティングを教えてもらうことができました。
 
庭山 一郎 氏
プロフェッショナルB2Bマーケター。大学教授、経営者、作家、ナチュラリスト

 1990年シンフォニーマーケティング株式会社を設立。35年間で約600社の企業に対しB2Bマーケティングのコンサルティングを手がける。各産業の大手企業を中心に国内・海外向けのマーケティング&セールスの戦略立案、組織再編、人材育成などのサービスを提供。海外のB2Bマーケティング関係者との交流も深く、世界最先端のマーケティングを日本に紹介している。ライフワークとして、「シンフォニーの森の再生」に取り組む。中央大学大学院ビジネススクール客員教授、早稲田大学大学院 WASEDA NEO 講師、IDN(InterDirect Network)理事、「日経クロストレンド BtoBマーケティング大賞2024・2025」審査委員長。著書に『儲けの科学 The B2B Marketing』(日経BP社)、『BtoBマーケティング偏差値UP』(日経BP社)、『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)』(日経BP社)、『BtoBのためのマーケティングオートメーション 正しい選び方・使い方』(翔泳社)、『サラサラ読めるのにジワッとしみる「マーケティング」のきほん』(翔泳社)、『ノヤン先生のマーケティング学』(翔泳社)など多数。

 状況がガラリと変わったのは、リーマンショックです。日本のB2B企業にとってウェイクアップコールになりました。それまで納期さえ守っていればよかった製造業のサプライヤーは、取引先に「うちだけに頼るのはやめてくれ」と言われます。御法度だった競合メーカーとの取引も解禁されました。「自分の餌は自分で探してね」ということです。

 しかし、売上の大半を特定企業に依存していたサプライヤーはどうすればいいの?と頭を抱えます。

―― 引き合い依存から脱却して自分たちで売上を立てるために、マーケティングが不可欠であることに気づき始めたのですね。

 私たちの支援に対しても、今度はもうスタンスが違います。切羽詰まっているから、みんなメモを懸命にとって、質問もぶつけてきます。

 創業したての頃は「B2Bマーケティングなんて必要ない」「B2Bにこだわっていると潰れる」などと影で言われていましたが、今は「よく生き延びたね」と言ってもらいます(笑)。

―― そもそも庭山さんがB2CではなくB2Bを選んだのはなぜですか。

 私が最も得意とするのはデータベースドマーケティングです。データに基づく顧客管理はB2Cでも重要ですが、私には「3割が感性、7割が科学」であるB2Bのほうが合っています。B2Cだとこの比率がひっくり返り、感性のほうが重要になってきます。

 つまり、コカ・コーラが儲けている理由を私には明確に説明しきれないのです。ヒットしている曲やCMも、マーケティングプランだけ見ると稚拙な場合があります。「心」は読み切れず、感性の勝負になるのです。それに対してB2Bマーケティングは「心」が入り込む余地はほぼありません。「B2Bマーケティングも人対人」という考えもありますが、7割はサイエンスで決まります。マーケティングプランで制御できるバランスが自分には心地よかったのですね。「B2B」にもさまざまな解釈がありますが、当社では明確にB2B企業を定義して、専門性を高め続けています。

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