プロマーケターの倫理と資本主義の精神~広告苦情50年の歴史から~ #02

苦情1位は新聞。広告費詐欺など横行、業界の自主規制進んだ草創期【JARO 川名周】

 

1974年度~1983年度:詐欺まがいの表示横行、自主基準の整備進む


 設立直後の10年は第1次・第2次オイルショック、激しい物価高騰、環境問題などが起こり、それに伴う消費者運動も活発化し、行政の施策も、消費者保護のための規制強化の方向に推進されました。景品表示法の規制が強化され、訪問販売法や貸金業規制法の新設、薬事法や旅行業法の改正、自治体の消費者保護条例が次々と整備されていきました。

 また、業界の自主基準づくりも相次ぎ、事業者が景品表示法に基づき表示や景品について自主的にルールを設ける「公正競争規約」は、この10年で多くの業界団体において整備され、各企業においても消費者窓口の設置が進んだ時期です。

 消費者問題としては、消費者金融の過剰融資やいわゆるヤミ金、マルチ商法、詐欺的な内職あっせんやねずみ講などが社会的な問題になったほか、環境や健康への関心の高まりから合成洗剤追放運動なども起こりました。
 
業種別の受付件数
棒グラフ:全体件数 折れ線グラフ:上位10業種の件数推移(1974-1983)

 この期間のJAROの受付状況を見ると、不動産や人事募集、健康食品、通信販売、旅行などの業種で、不表示や誇大表現など、消費者を誤認させる苦情が多く寄せられました。中には、電話帳広告を切り抜いて請求書とともに送りつけ、自社が出した広告の請求書と勘違いさせて広告費を騙し取る「広告の取り方」商法や、「簡単に稼げる」などと言って高額な教材や道具を買わせる「内職商法」といった詐欺的なものも目立ちました。 
 
媒体別の受付件数
棒グラフ:全体件数 折れ線グラフ:上位10媒体の件数推移(1974-1983)

 広告に関する苦情が多い媒体別で見ると、今となっては驚きますが「新聞」が多くを占めます。初年度から1980年代後半まで、ほとんどの年度で①新聞②テレビ③雑誌の順となりました。苦情が多いメディアは、社会の中でのそのメディアの影響力を如実に示します。ちなみに新聞広告はその後、適正化が進み、2024年上半期の苦情数は64件と、インターネットなどに比べて圧倒的に少なくなっています。

 ここでJAROの組織体制について少しご説明しますと、JAROは内閣府から認定を受けた公益社団法人として、広告主、媒体社(新聞・放送・出版・インターネット)、広告会社、広告制作会社など、広告に関連する「会員社」によって構成されています。会員社メンバーが役員を務める理事会の下、広告・表示の審査に携わる審査部門と活動全般の方向付けをする総務部門があり、審査部門には、会員社の専門家からなる「業務委員会」とその分科会、会員以外の学識経験者が構成する「審査委員会」があります。

 1974年度~1983年度に業務委員会で審議が行われた広告の内容を見ると、講座や金融商品、レコードや百科事典、化粧品やパッケージツアーなど、さまざまな商材が扱われていました。この時期は、業務委員会が審議した結果の「見解」を基に、関係する業界団体が自主基準を変更したり、団体の傘下企業に周知したりするなど、広告適正化に向けてJAROと連携したケースも多く見られました。企業・団体・JAROがともに適正化を推進するという、自主規制のあるべき姿が実施できた例です。

 高度経済成長期を経て、社会全体で消費者保護の動きが生まれ、企業や団体、ビジネスパーソンが自らを律して広告適正化の方向に踏み出していった。今回はその倫理性の原点に、思いを馳せていただければ幸いです。

1974年度~1983年度のポイント:
🔳まだ相談受付数は少ない。
🔳媒体別では「新聞」が10年を通して1位。
🔳業種別では「広告業」そのもの(「広告の取り方」商法など)や、「不動産」「人事募集」「内職」などが目立つ。
🔳世の中の苦情をもとに、業界の自主基準(例:不動産広告で電車の「所要時間」の正確な表示)も定まっていった時期。

※図表は全てJARO提供。
※第3回 バブル、詐欺、消費者金融…激動の時代を映す1990年前後の広告苦情。テレビが広告費押し上げ、ネットの時代へ【JARO 川名周】 に続く。
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