日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #57
「もし、その商品がなかったとしたら?」ネガティブ面を描いて好感度1位になったUber Eats人気CM
陰鬱な英国の冬を舞台に、 夏を感じるアイスクリーム広告
その商品がない時のネガティブな面にフォーカスした広告コミュニケーション事例として、筆者の脳裏に浮かんだのは、英国のマグナム・アイスクリームが実施した「Find Your Summer」という事例です。この広告コミュニケーションは、2024年カンヌライオンズで、アウトドア部門グランプリなどを受賞しています。
この事例における「その商品が無い時のネガティブな面」というのは、英国の冬の尋常ではない陰鬱さです。英国の冬は厳しい天候で、1日平均2.4時間の日照しか無く、人々は寒さに縮こまり、40%の人は夏より不幸だと感じていると言います。人々は、僅かな太陽の光を待って、待って、待ちわびる日々を過ごします。もちろんアイスクリームの売上も、夏場の半分以下に激減します。
そこで、マグナム・アイスクリームは、英国の街角で、ビルの上で、室内で、わずかに差し込む太陽の光に当たりながら、マグナム・アイスクリームを食べれば、それは僅かながらだけれど「あなたの夏だ」とメッセージしました。アウトドア広告や新聞広告や雑誌広告などで、幅広く展開したのです。
さらには、デジタルサイネージで、そのタイミングに光が指している近所の場所を表示することも実施しました。その表示は、例えば、「ポロックショー通りとニスデール通りの交差点辺り・午前7:55~8:35」というように、すこぶる具体的です。スマートフォンでも陽光情報の場所と時間は表示され、近くの小売店でその表示を見せれば、マグナム・アイスクリームの特別割引もゲットできたようです。
キャンペーンの結果として、マグナム・アイスクリームは、この時期の売り上げとしては最高の、前年比66.3%増を記録しました。
普通、何かのプロモーションを考えようとすると、その商品やサービスの良いところを褒めようとします。でも、例えばUber Eatsのようにある程度サービスの内容を誰もが知ってしまっている時に、目を引いて心に残るかたちで当該サービスの良さを訴求するのは至難のワザです。であれば、いったん「その商品やサービスが無いとしたら?」について考えてみるのも、けっこう有効な手段かもしれませんよ。
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