プロマーケターの倫理と資本主義の精神~広告苦情50年の歴史から~ #04
スマホ、リーマン、震災、コロナで広告苦情も変化。ネット広告の悪質事例「三段跳び型」で摘発も【JARO 川名周】
2025/03/25
2014~2023年度:ネット広告費がテレビ上回り、不当表示も
私がJAROに入局したのが2018年。出社当日の最初の業務は「ネット広告適正化」に関する社内会議に出席することでした。この時期の媒体別推移グラフ(下図)を見れば一目瞭然ですが、ネット上の広告・表示に関する苦情が伸び続けます。日本の広告費(電通)でインターネット広告費がテレビを上回るのが2019年。JAROが受け付けた広告苦情でも、全く同時期の2019年度にインターネット上の広告・表示に関するものがテレビを上回りました。

棒グラフ:全体件数 折れ線グラフ:上位10業種の件数推移
※2013年度までは苦情・意見を合わせた「受付件数」だったが、2014年度からは苦情のみを抽出してグラフを作成している(下の業種別も同様)。
そして2020年には、コロナによる緊急事態となります。この年の総受付件数は過去最高の1万5千件超え。行動制限・在宅勤務の影響でメディア接触時間が伸びたことも苦情を多くしました。また不安心理から「車の中でマスクもしないで歌っているテレビCMがある。なぜマスクしていないのだ」といった、通常期には来ないような苦情も見られました。
加えて産業としてECビジネスが大きく伸び、健康食品、化粧品・医薬部外品において、「今なら半額」といった作為的な謳い文句で定期購入に誘導するネット上の広告・表示も急増しました。

棒グラフ:全体件数 折れ線グラフ:上位10業種の件数推移
※上の媒体別と同様、苦情件数のみを抽出したグラフ。
ネット上の広告・表示に対して苦情が増えたのは、2015年頃からネット広告の販売メニューとして始まった「インフィード」広告と、以前からあるアフィリエイトプログラムの組み合わせによる「三段跳び型の悪質な広告・表示」(下図参照)が横行したことに起因しています。
私自身は、広告会社の勤務時代には「スマホの普及に伴ってこれからはインフィード広告が来るよね」と吹聴していたわけですが、このような形になるとは、その時は予想もしていませんでした。

上図の①ホップ部分は「バナー」広告です。販売主が出稿するのではなく、②のアフィリエイターがアフィリエイトサイトへ誘導するため自分でお金を出して広告枠を買っています。②のアフィリエイトサイトでは「シミがとれる」など法律違反の訴求が行われているケースも多く見受けられます。そこから販売主が運営する③の公式販売サイトに飛んで、そこで購入されると一定の比率の金額が②のアフィリエイターに入る仕組みです。
ちなみに、健康食品や「痩せる」といった美容系の商材は、JAROの設立以来50年、ずっと一定数の苦情がある業種なのですが、2000年代初頭までは「折込」で展開されていました。生活者のメディア接触がスマートフォンに大きくシフトしたことに伴い、これらの商材の主戦場もネット上になり、販売の主流が単品から定期購入に変わったことも、この手法の普及を後押ししました。定期購入であれば総額が大きくなり相当額のアフィリエイト費用が入るので、販売者そしてアフィリエイターにとってWIN-WINになるからと考えられます。
企業が第三者を通して自社の商品・サービスを宣伝し、成果に応じて報酬を支払うアフィリエイトプログラム自体は、歴史のある販促手法でもちろん合法です。ここでは一部の悪質な事例を取り上げています。
アフィリエイトプログラムを利用した広告・表示に関しては、違法な効能効果や偽の体験談をネットに載せたとして、大阪府警が2020年7月、広告主である健康食品の販売業者のみならず、広告会社の社員まで薬機法違反で逮捕する事件が起こり、ネット広告業界に衝撃が走りました。広告主が責任を負う景品表示法と異なり、薬機法は命に関わる商材を扱う法律であることから、摘発対象範囲が限定されないのです。
消費者庁も対策に乗り出し、「アフィリエイト広告等に関する検討会」を2021年から開催し、一部の法規ガイドラインを2022年に改正したことなどから、悪質な事例は減少傾向にはなったものの、いまだにネット上の悪質訴求は無くならないのが現状です。
この10年のポイント
🔳ネット広告費の急増とともにネット上の苦情も引き続き増加。2019年度以降はテレビを上回って主流となる。
🔳2020年度が受付件数で歴代最高に。コロナ禍によるメディア接触の増加、不安意識、ECの広がりが苦情を押し上げた。
🔳美容・健康系の商材(健康食品・化粧品・医薬部外品など)のECを通した定期購入での苦情が増加。作為的な「シミが取れる」などの薬機法・景表法・特定商取引法違反の訴求や、「今だけ」「初回半額」「全額返金」といった煽りも横行。
※本文中のグラフ・画像は全てJARO提供、サムネイル画像は123RF提供
※最終回 市場を「良き企て」であふれさせるために。JARO事務局長が信じるプロフェッショナル・マーケターの条件【川名周】 に続く
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