TOP PLAYER INTERVIEW #89
ノバセルがクリエイティブ体制一新、田中大地氏と田中壮太郎氏が描く「クライアント・ファースト」な未来図
生成AIは人間の創造性をも代替すると言われ、マーケティングやクリエイティブの領域でも既に標準ツールとなりつつある。運用型テレビCM事業を起点としたマーケティングプラットフォームを自任するノバセルはそんななか、元ピュブリシス・グループ・ジャパンの田中大地氏、元ADKの田中壮太郎氏の2人のクリエイターを迎え、クリエイティブ体制を刷新した。
この人事について同社代表取締役の田部正樹氏は自身のブログで、ノバセルが培ってきた顧客理解と戦略策定、AI活用によるデータ分析に加え、2人が率いるクリエイティブチームによって「平均的との印象」だったクリエイティブをアップグレードし、AI時代を勝ち抜く新たなマーケティングソリューションを実現できる、と語っている。
熱い期待を受けてジョインした「2人の田中氏」はどんな人物なのか。AI時代のクリエイターはマーケティング領域にどんな影響を及ぼすのか。そしてクリエイター自身の「生存戦略」とは…。麻布台ヒルズに移転したばかりの同社新オフィスで話を聞いた。
この人事について同社代表取締役の田部正樹氏は自身のブログで、ノバセルが培ってきた顧客理解と戦略策定、AI活用によるデータ分析に加え、2人が率いるクリエイティブチームによって「平均的との印象」だったクリエイティブをアップグレードし、AI時代を勝ち抜く新たなマーケティングソリューションを実現できる、と語っている。
熱い期待を受けてジョインした「2人の田中氏」はどんな人物なのか。AI時代のクリエイターはマーケティング領域にどんな影響を及ぼすのか。そしてクリエイター自身の「生存戦略」とは…。麻布台ヒルズに移転したばかりの同社新オフィスで話を聞いた。
クライアント・ファースト貫くキャリア形成
―― おふたりが参入した背景については田部正樹氏がnoteで語っています。おふたりにはノバセルのクリエイティブ体制を一新する大きな役割が期待されているようです。責任の重さやリスクも伴うと思いますが、転職を決意されたのはなぜでしょうか。
大地 僕の師匠の教えが、今回の転職に導いたというか。小霜和也さん(※1)という偉大なクリエイターなのですが、プロデューサーをしながら燻っていた20台後半の自分を、クリエイティブ未経験にも関わらず、いきなりコピーライターとして採用してくれた恩人でした。
もう亡くなられてしまったのですが、「クライアントを勝たせるためのクリエイティブ」という矜持を、365日、つきっきりで叩き込んでくれて。このコラムにも書かせていただいたのですが、文字通り強烈でした。実際、「クリエイティブ・ファースト」が業界でもてはやされていた2000年代初頭から、一貫して「クライアント・ファースト」を貫き続けていた彼の生き様に、僕は今でも心酔していて。その信念を持って、ピュブリシス・グループ・ジャパンという広告会社で働けた12年間は、素晴らしいクライアントに恵まれた幸福な時間になりました。
(※1)小霜和也氏:博報堂出身のクリエイティブディレクター、コピーライター、マーケティングアドバイザー。PleyStationシリーズやキリン「一番搾り」、積水ハウスなど幅広い企業の広告コミュニケーション設計に従事し、広告賞受賞多数。2021年に58歳で死去。

ノバセル チーフブランドオフィサー
ラクスル グループクリエイティブディレクター
田中 大地 氏
世界3位の広告会社グループのGroup Creative Directorとして、外資系ブランドのクリエイティブをリード。消費財や化粧品をはじめ、酒、煙草、自動車、製薬、アプリなど、幅広い業界で戦略構築からコミット。クライアント・ファーストを掲げ、CM/デジタル/SNS/PRを駆使したプロジェクトを統括。メインクライアントの日本マクドナルドとは、12年間、苦楽を共に並走。カンヌライオンズをはじめ国内外で受賞多数。
ラクスル グループクリエイティブディレクター
田中 大地 氏
世界3位の広告会社グループのGroup Creative Directorとして、外資系ブランドのクリエイティブをリード。消費財や化粧品をはじめ、酒、煙草、自動車、製薬、アプリなど、幅広い業界で戦略構築からコミット。クライアント・ファーストを掲げ、CM/デジタル/SNS/PRを駆使したプロジェクトを統括。メインクライアントの日本マクドナルドとは、12年間、苦楽を共に並走。カンヌライオンズをはじめ国内外で受賞多数。
特に最後の約6年間は、日本マクドナルドさんをほぼ専属で担当させてもらって。毎回セールスレコードを狙いながら、年々高くなっていく目標を、クライアントと一心同体になって必達していく。ローンチの日に、胃が痛くなりながらセールス初報を頂き、場合によってはあらゆるリカバリープランを即展開していく。同時に、中長期的なブランディングも見据え、あらゆる手口にトライしながらPDCAを回し続ける日々。しかも僕以外の全CDがレジェンドクリエイターばかり、という最高にエキサイティングな共創&競争環境でもありました。
何より、この国を代表するカリスマCMOに並走させていただけたことが、大きくて。ズナイデン房子さんという素晴らしいリーダーや、現在はファミリーマートでご活躍の足立光さん(※2)は、小霜さんにつぐ、自分の師匠だと思っています。
ただ同時に、日本最高峰のマーケティングチームとご一緒する中で、「一度は事業主サイドに行くべきでは」というジレンマを抱える日々でもありました。広告会社というのは、自分でどんなにお客様の商売にコミットしているつもりでも、やはり事業会社の皆さんとは「責任の重み」が違う。この先も、クライアント・ファーストなクリエイティブ人生を貫くためにも、一度はクライアントサイドに行くべきなのは歴然でした。その経験が自分の提案をより重くするというか、そこにこそ自分のクリエイティブの伸び代があるはずで。今後、年齢を重ねても、ズナイデンさんや足立さんのように仕事人生を楽しみ尽くすためには、今ここで、自分のキャリアをもう一段引き上げる必要があるのではと、危機感がハンパなくて。とはいえ、代理店クリエイティブのキャリアや楽しさを一旦捨てざるを得ない事実に、一歩踏み出せない自分がいて。
(※2)足立光氏:ファミリーマート エグゼクティブ・ディレクター CMO(兼)マーケティング本部長 CCRO(兼)デジタル本部長、ノバセル社外取締役
そこでいったん、マクドナルドのクリエイティブを統括する傍ら、当時の社長を巻き込んでピュブリシスの社内変革をやってみたり、クライアントさん向けに「社内CD代行業」を立ち上げてみたり、折衷案的なトライアルを重ねました。かなり上手くいった部分もあれば、世代間ギャップによるモチベーションの違いに阻まれたり、代行という立場の限界にも突き当たっていたりした頃、悩みをすべて解決できるオファーを提示してくれたのが、ラクスルCMO/ノバセルCEOの田部でした。
「ラクスルグループ」のブランディングを、中から統括してほしいと。と同時に、グループ会社には「広告会社ノバセル」も含まれるわけですから、自分のクリエイターとしてのキャリアも途切れない。何より、事業会社出身者として、日本で最もクライアント・ファーストなマーケティングを実践している田部と、自分が組んだら、どうなるか。ワクワクが止まらなかった。
幸運なことに、タイミングも良くて。ラクスルは「ネット印刷の会社」から、この先、「中小企業の皆様の悩みを包括的に抱きしめるプラットフォーム」へと進化しようとしています。マス広告だけではなく、広報改革、社内カルチャー醸成と採用コミュニケーションのテコ入れなど、自分のやってきたことが活かし放題なフェーズに突入します。ノバセルも、若い会社として、挑戦を続けています。テクノロジーが業界のルールを全て変えてしまう前に、自分たちが主導権を持って、マーケティング業界を変革する気概にあふれている。事業会社と広告会社、双方のブランドづくりに、変革の意欲ある人々と一緒に携われるのは、自分にとって渡に船で、光栄なオファーでした。
個人としての自分を頼ってくださるクライアントさんに、「社内CD代行業」も続けさせていただくので、「人の何倍働く気なのか」と妻に呆れられてます…。でも、ぶっちゃけ「人の何倍も人生を濃くできるチャンス」なのは明確だし、複数視点を持つことでクライアントへの提案が確実にステージアップするのは、これまでのキャリアで証明済みなので。3つの仕事を掛け合わせながら、自分なりに「最強のCD」を目指そうと思っていますし、同時に、自分のような「天才じゃないクリエイター」にとって、手堅く勝ちに行くための「ポートフォリオ・キャリア」でもあるんです。みんなもラクスル/ノバセルに来ちゃえばいいのに、と真剣に思ってます。自己紹介、長すぎですか?(笑)