よなよな流「ファンベース・ブランディング」―ファンの熱狂をブランドの力に変える方法 #07

よなよなエールが、イベント「超宴」を赤字でも開催する理由:ヤッホーブルーイング井手社長

狙うべきは「トップ・ワン・ボックス」

稲垣 「大満足」と言えば、てんちょが重視していることのひとつに、「トップ・ワン・ボックス」がありますね。

井手 ネーミング、パッケージ、イベント、プロモーション――ブランドを取り巻くどんな施策も、ファンからの評価は7段階評価の一番上、「7:非常に満足」を狙わないとダメ。トップ・ツー・ボックスが全体の80%を占めればいいと言っていた時期もあったけれど、今はトップ・ワン・ボックスの割合をいかに高めていけるかが重要だと思っている。

 「6:満足」ももちろん悪いわけではないけれど、リピートや、周囲へのレコメンドといった能動的な行動にはつながらないことが多い。僕らが狙うべきは「7:非常に満足」、言い換えると「感動した!」「こんなの見たことない!」「すげえや!」ということ。この評価を全体の70~80%にまで高めていくことが、口コミを喚起したり、僕らのビールを一生愛し続けてもらうことにつながると思っている。

 新商品のネーミングやデザインを選ぶ際も、お客さまにインタビューするケースが多いよね。そこでも、注目すべきは「トップ・ワン・ボックス」。さらに絶賛のコメントがついていれば、なお良しだよね。評価ポイントとコメントの内容を勘案して、どの案がターゲットから熱狂的に支持される可能性があるかを見極める。

稲垣 ヤッホーブルーイングには、圧倒的差別化が必要なんですよね。評価ポイントの分布がM字型(編集部注:ポジティブな評価とネガティブな評価が同じくらい存在する状態)になっていると、ちょうどいいなと思っています。「自分にすごく合っている」と感じる人と、「私の好みではない」と感じる人の両方がいて、好き嫌いが如実に表れるのがいい。記憶に残らないのが一番ダメですから、賛否両論あるのはかえって良いことだと考えます。

 賛否両論の評価を正しく読み解いて、ヒットした事例のひとつに「水曜日のネコ」がありますね。ネーミングはすんなり決まったけれど、デザインは2つの方向性の間で支持が割れていました。最終的に決まった現行デザインは、人によって好き嫌いの差がかなり如実に現れていましたが、コアターゲットに近い層の支持が高かったことが決め手となりました。
 
「水曜日のネコ」
井手 これが大手企業だったら、もっと多くの人が平均的に支持する案を採用するはず。7段階評価で平均的に「6」や「5」の評価を得る案を選ぶのが一般的だけど、「7」がどれだけ多いかを重視するのが僕ら。100人中100人が「7」をつけるような案はないと思うけれど、100人中10人でも「7」がいたら、それはヒットする案である可能性が高いと言える。

 ローソンと共同開発しているクラフトビールシリーズ「僕ビール、君ビール。」は、半年ごとに新商品をリリースしているけれど、ヒットの打率がどんどん上がってきているよね。評価の分布を読み解いたり、お客さまから有意なコメントを引き出す精度が上がってきたということかな。
 
「僕ビール、君ビール。ミッドナイト星人」
稲垣 インタビューで得られたコメントは、まとめずに、ありのままを記録しています。例えば、2017年9月に発売した「僕ビール、君ビール。ミッドナイト星人」のパッケージには、カエルがトレンチコートを着て街を徘徊しているという、謎めいたイラストが描かれていました。アンケートには、「謎めいている」「このカエル、このあとどうなっちゃうんだろう?」「何となく、このカエルに自分を投影してしまった」といったコメントが見られて、ヒットの予感を強く感じたのを覚えています。見た人が、自分で勝手にストーリーを想像し始めたらこっちのものです。お客さまの意見を繰り返し聞くなかで、そういう想像を促すネーミングやデザインとはどういうものなのか、だんだんわかってきた気がしています。

井手 お客さまの声を繰り返し聞くことで、お客さまの心に刺さる尖ったアイデア、研ぎ澄まされたデザインが候補に確実に入ってくるようになったということだね。お客さまからのコメントの内容を良しとするか否か、その判断の精度も高まってきている気がする。

稲垣 このネーミングから、ストーリーや情景が浮かんでくるか?情景は浮かぶけれど、言葉が尖りきれていないんじゃないか?この表現に、ヤッホーブルーイングらしいユニークネスはあるか?――確かに、そういう鋭い議論ができるようになってきましたね。チームのレベルが上がってきたと思います。
 
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「よなよなエールのブランドは、マニュアルではつくれない」ヤッホーブルーイング井手社長
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