TOP PLAYER INTERVIEW #91
Jリーグは「関心度低下」の危機をどう乗り越えたのか、マーケティング本部長の鈴木章吾氏が明かす変革
2025/05/12
2024年シーズン、Jリーグは過去最高の年間1254万人超という来場者数を記録し、大きな注目を集めた。この成果の背景は、J1クラブ数の増加や各地で新スタジアム開業といった追い風に加え、新規のファン・サポーター獲得を狙った「ローカル露出戦略」や「注力試合」をはじめ、国立競技場の活用といったさまざまなマーケティング施策があった。
この変革を推進したのが、2025年3月18日にJリーグの執行役員 事業マーケティング本部 本部長に就任した鈴木章吾氏だ。前編では、過去最高の来場者数を記録したJリーグのマーケティング施策と、鈴木氏が大切にする「客観的な視点」について紹介した。後編では、Jリーグに対する関心度が低下しているという危機感から導入した重要なKPIの狙いや、世界で唯一無二のリーグを目指す戦略と挑戦について詳しく聞いた。
この変革を推進したのが、2025年3月18日にJリーグの執行役員 事業マーケティング本部 本部長に就任した鈴木章吾氏だ。前編では、過去最高の来場者数を記録したJリーグのマーケティング施策と、鈴木氏が大切にする「客観的な視点」について紹介した。後編では、Jリーグに対する関心度が低下しているという危機感から導入した重要なKPIの狙いや、世界で唯一無二のリーグを目指す戦略と挑戦について詳しく聞いた。
憧れのJリーグは、マーケティングキャリアを存分に生かせる場だった
―― 鈴木さんご自身は2025年3月に、執行役員 事業マーケティング本部 本部長に就任されましたが、2022年にJリーグに入社された経緯を教えていただけますか。
子どもの頃からサッカーとJリーグが大好きでした。将来的にはサッカーやJリーグに関連する仕事に就きたいと漠然と考えていました。ただ、当時は新卒でJリーグやクラブに入るというキャリアパスは稀だったので、一般企業に就職しました。そこでマーケティングを専門として自分の価値や能力を磨きながら、いつかはサッカー業界にチャレンジしたいと考えていました。
そんな中、2021年の夏にJリーグがマーケティングのポジションを募集しているのを見つけ、思い切って応募しました。それまで一貫してBtoC向けのマーケティングに携わってきた経験を生かして挑戦したいと考え、入社を決めました。

日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)
執行役員 事業マーケティング本部 本部長
鈴木 章吾 氏
日本生活協同組合連合会、キリンホールディングス、野村総合研究所にて、一貫してtoCマーケティング領域に従事。2022年にJリーグに入社。現職ではJリーグのプロモーション、集客CRM、MD/ライセンス事業、デジタルマーケティングプラットフォームなど、toCに関わる領域全般を統括。
執行役員 事業マーケティング本部 本部長
鈴木 章吾 氏
日本生活協同組合連合会、キリンホールディングス、野村総合研究所にて、一貫してtoCマーケティング領域に従事。2022年にJリーグに入社。現職ではJリーグのプロモーション、集客CRM、MD/ライセンス事業、デジタルマーケティングプラットフォームなど、toCに関わる領域全般を統括。
―― これまでのキャリアで培われたマーケティングの経験は、現在のJリーグでどのように生かされていますか。
マーケティングの基本的な素養は前職の野村総合研究所、前々職のキリンホールディングスで培われたものが生きていると感じます。特に、CRMや販売促進だけではなく、ブランドマーケティングの領域に関わる経験があった点が大きいですね。
ブランドマーケティングはECやリテールといった短期的な販売促進とは異なり、中長期的な視点でブランドの価値や認知、関心をどう高めていくかという仕事です。これまでの経験から、私は「Jリーグが盛り上がっている」「Jリーグは価値ある存在だ」という認識を、ファン・サポーターだけでなく、スポンサー企業や世の中に対して広く浸透させなければ、ブランドとしての確立は難しいと感じました。
そこで、Jリーグをひとつの「ブランド」として捉え、そのコンディションを客観的に測定・評価するという視点を取り入れました。現在は、単に集客や売上といった直接的なコンバージョン指標だけでなく、Jリーグへの「関心度」を重要なKPIとして設定し、定期的に測定しています。
危機感から生まれた重要なKPI「関心度」と「露出量」
―― 「関心度」を、なぜ重要視されているのでしょうか。
関心度は将来的な観戦や購買行動につながる指標であり、現在のJリーグの状態を示す重要なものだと考えているからです。実は2019年頃まで、Jリーグへの関心度は年々じわじわと低下傾向にありました。このままでは、さまざまなコミュニケーションが既存のコアファンやサポーター向けに特化し、新規・ライト層に対する訴求力が弱まってしまいます。多くのブランドが陥りがちな罠に、Jリーグもはまりかけていたのです。
そのため、コアなファン・サポーター向けの深堀りしたコミュニケーションと、新規・ライト層向けの間口が広がるコミュニケーションは、常に両輪で回していく必要があると考えました。
「関心度」の測定は、具体的に「直近1年間でJリーグの試合をスタジアムで観戦したか」「今後、観戦する意向があるか」といった質問項目を含む定量調査を半年に一度実施しています。この調査で「Jリーグを観戦したい」と回答する人の割合が増加していれば、我々の取り組みによってJリーグの知覚品質が向上している、と評価できます。ブランド調査における購買意向やブランド想起に近い考え方です。
「ローカル露出戦略」は、将来のファン・サポーターを増やすための、中長期的なコンバージョンを見据えた施策だと位置づけています。短期的な集客・売上目標を追いながらも、1~3年後にファン・サポーターになる可能性のある層のボリュームが拡大しているかKPIで可視化し、試行錯誤を続けることが持続的な成長の鍵だと考えています。
―― 中長期施策は、効果測定や予算確保が難しい側面もありますが、Jリーグではどのようなロジックで意思決定されていますか。
「露出量」を非常に重要なKPIとして、集客や売上と並列で評価しています。デジタルとマスメディアの双方での露出量を定量的に測定し、人々の目に触れる機会がどれだけ創出されているかを重視します。
この露出量は広告価値に換算し、量と価値の両面から投資対効果を評価する仕組みを取り入れています。これにより、関心度向上のような中長期施策への投資判断を行いやすくしています。