日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #59
「紅茶よりTEAにしない?」って、いったいどういうこと!? “ライバルブランドありき”の広告表現で勝負する『クラフトボス 世界のTEA』シリーズ
2025/04/30
いわば“廻り道バーガー”。ライバルであるマクドナルド店舗を廻り道してから店舗に来ると、わずか1セントで食べられるという、バーガーキングのWhopper Detour
ライバルブランドを強く意識して成功した海外の事例で今回ご紹介したいのが、アメリカでバーガーキングが実施した「Whopper Detour(廻り道ワッパー)」です。この広告コミュニケーションは、2019年のカンヌライオンズで、チタニウム、ダイレクト、モバイルの3部門でグランプリを獲得しています。以前にもご紹介していますが、ワッパーはバーガーキングの最もスタンダードなハンバーガーのこと。バーガーキングは全米2位の地位にあり、トップでライバルあるマクドナルドへの様々な挑戦で有名ですが、その中でもこの「廻り道ワッパー」は飛び抜けた話題作となりました。
バーガーキングは、ワッパーを1セントで買えるアプリを開発、マクドナルド店舗の180m以内でのみ1セントでオーダーできるようにしました。実際には“マクドナルド店舗内で”オーダーする必要はないのですが、多くの人はマクドナルド店舗まで出かけ、アプリを通じて1セントワッパーをオーダーし、そこから案内に従ってバーガーキングの店舗にやって来た(廻り道してワッパーをゲットした)と言います。
つまり、全米に1万4000店以上あるライバル社のリアル店舗を、自社のモバイル・プロモーション伝達のツールとして活用したわけです。
バーガーキングは、マクドナルドの店舗の多さに“乗っかり”、使い倒したと言えます。「廻り道ワッパーに参加して、ここで1セントワッパーをゲットしたよ!」と分かる移動用撮影スポットを用意して、マクドナルド店舗近くに配置、人々がSNS等に投稿しやすいようにもしました。テレビ番組をはじめ多くのメディアがこの試みを取り上げて、ますます多くの人が知ることになりました。
カンヌライオンズに参加していた日本人でも生真面目なタイプの人は、この施策を「卑怯な感じがして、こんなに評価されることが理解できない」という感想を述べていましたが、少なくともアメリカ人は歓迎したのです。廻り道ワッパーの遊び心を面白いと感じ、ドライブスルーでマクドナルドの店員に対して“ワッパーください”と発言する米国人は、相当数に上ったようです。
結果としてバーガーキングは、過去4年間で最高の来店者数を達成するなど、大きな成功を収めました。ヒトに乗っかり、ライバルまで活用するバーガーキングのやり口は、そのお茶目さで広く受け入れられているようです。
「Whopper Detour」の事例ビデオ
どんなビジネスにも、たいていの場合、強力なライバルは存在します。あるいは、一人のビジネスパーソンとしても、優秀なライバルは常に存在するでしょう。そんなライバルと無関係に自社製品や自分の強みを打ち出すよりも、時に「アッチよりコッチ、その理由は・・・」と伝えたほうが伝わりやすく、成果に繋がるかもしれません。
ただし、日本の人は、「あからさまなライバルいじり」はあまり好きではないとも言われています。自分自身も、昔、ある有名ブランドのテレビCMで“ライバルいじり”的な案を提案してクライアントはOKだったのですが、行政やテレビ局の考査でNOだったこともあります。いくらお茶目でも「Whopper Detour」のような施策は許容されない可能性も高く、クラフトボスの例のように“匂わせる”くらいが、日本的なのかもしれません。
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