新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #18

きゃりーぱみゅぱみゅからSnow Man、HANAまで。コンテンツを起点に熱狂を生み出す「YouTube」という装置の進化に迫る

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きゃりーぱみゅぱみゅからSnow Man、HANAまで。コンテンツを起点に熱狂を生み出す「YouTube」という装置の進化に迫る
 日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界でも注目されることが多くなった昨今。本連載は、さまざまなエンタメ領域の舞台裏で、ヒットを生む旗手たちの思考を noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が解き明かしていく。

 今回、徳力氏が対談したのは、YouTubeの音楽部門を牽引する佐々木舞氏と鬼頭武也氏。世界最大の動画共有プラットフォームであるYouTubeにおいて、日本のアーティストの音楽コンテンツはどう視聴され、また日本のユーザーは音楽コンテンツをどう視聴しているのか。

 前編となる今回は、ミュージックビデオ(MV)を公開するだけではない、YouTubeにおける音楽コンテンツの有効な発信方法や、アーティストと視聴者・ファンのコミュニケーションのあり方について、グローバルの最新事例と日本の現状を比較しながら考える。

 インタビューを受けてくださった佐々木舞さんは、本インタビューの後に急逝されました。本稿は佐々木さんが生前に語られた内容に基づくものです。謹んでご冥福をお祈りします。
 

YouTubeにおいて、音楽は重要コンテンツであり続けてきた


徳力 YouTubeというと「動画配信」の印象がどうしても強く、実はあまり「音楽配信」の印象はなかったんです。でも、気がつくと、アーティストがミュージックビデオ(MV)をYouTubeにアップするのは、いまや当たり前の所作になっていますよね。特に日本においては、長らく、デジタル上で楽曲を聴けるのはYouTubeだけというアーティストがとても多かったと思います。YouTubeは、日本のアーティストの音楽活動にとって不可欠な存在と言えるのではないでしょうか。

アソビシステム代表の中川悠介さんにインタビューさせていただいた時に、きゃりーぱみゅぱみゅさんが2012年にデビューした際に、ミュージックビデオ(MV)をYouTubeにフル尺でアップしたことについて伺いました。当時は他にそんなことをしている人はおらず、「違法使用されるからやめたほうがいい」と周囲からは止められたそうです。でも、それがグローバルに拡散した結果、ケイティ・ペリーが話題にしたことで記録的な視聴回数につながり、デビューから1年足らずのワールドツアー実現につながっていきました。

YouTubeとしては、音楽というコンテンツが大事だと気づいたのはいつ頃のことだったのでしょうか?

佐々木 実は、YouTubeにパートナープログラム(動画視聴数などに応じて広告収入を得られるプログラム)ができて最初期の参加者に、音楽関係のパートナーも含まれていました。そのことからも、音楽はずいぶん前からYouTubeにおける重要コンテンツだったと言えると思います。

YouTube Music Artist Relations 佐々木舞氏
東芝EMIでのプロモーター、米国音楽アグリゲーターIODAでのビジネスデベロップメントの経験を経て、2011年からGoogle のYouTube チームに参加。現在日本のYouTube のアーティストリレーションズ担当として、アーティストのチャンネル活用による国内外でのヒット創出のサポートを行う。

徳力 日本の音楽権利者は「ネットは敵」という意識からなのか、YouTubeから少し距離を置いている印象でしたが、グローバルでは初めからそのような動きだったのですね。

佐々木 はい。パートナープログラムがスタートした当時、私は米国で働いていたのですが、まさに音楽権利者との契約がどんどん広がっていくのを目の当たりにしていました。

きゃりーぱみゅぱみゅさんのメジャーデビュー作『PONPONPON』(2012年)よりも前から、現地のYouTube MUSICチームでは、初音ミクや、perfumeの『チョコレイト・ディスコ』が話題になっていましたね。

徳力 YouTube Musicチャートで、MVのランキングを出されているのがすごく面白いなと思っているんです。音楽コンテンツだけを抽出・整理する仕組みを持たれているということですよね。YouTube全体に占める音楽コンテンツの割合がどれくらいか、数字として把握・発表されているものですか?

鬼頭 音楽コンテンツと一言で言っても、MVもあれば、アートトラック(ジャケット写真に音声をつけたもの)もあり、ショート動画もあれば、ライブ配信もあります。音楽コンテンツとは何かというカテゴライズは難しく、単一的な尺度での数字は存在しません。

YouTube Musicのチームとしては、音楽関係者の皆さんに「YouTubeはMVを配信する場ではありません」とお話ししているんです。多様なコンテンツを通じて、アーティスト自身のストーリーを発信できるユニークな場と捉えています。

YouTube Music Content Partnership, Director 鬼頭武也氏
NTTコミュニケーションズ、ユニバーサル ミュージック、レコチョクにてデジタル音楽配信の事業・サービス開発経験を経て2015年、Google入社。現在はYouTubeの日本、東南アジア、豪州、ニュージーランドにおける音楽レーベル・アーティストとのリレーションシップの責任者を務める。

 

佐々木 あらゆる形式のコンテンツを含めて、楽曲数でいうと1億曲以上がアップロードされているのは確かです。

徳力 世の中にある音楽は、ほとんどアップされていると言っても過言ではありませんね!
 

日本のユーザーの音楽コンテンツ利用の特徴


徳力 日本のエンターテインメントが世界に広がっていく上で、YouTubeの役割は非常に大きいと感じています。日本のYouTubeにおける音楽コンテンツの視聴状況は、世界と比較して何か傾向があるものでしょうか? 日本は音楽ストリーミングサービスの普及が遅れた分、YouTubeの利用が多かったりするのでしょうか。

佐々木 日本だけが際立って多い/少ないということはないと思います。YouTubeに公開することで世界に広がっていくという意味で言うと、戦略的にYouTubeを活用しているK-POPと比べると、基本的に国内で視聴されているJ-POPの視聴数は現状は多くはありません。K-POPや、インドなどの人口が多い国の音楽コンテンツは、総視聴回数が桁違いです。

鬼頭 日本の音楽コンテンツがどれだけ視聴されているかという話と、日本のユーザーが音楽コンテンツをどれだけ視聴しているかは、切り分けて考える必要があるかなと思います。後者で言うと、諸外国とそれほど大きな違いはありません。ただ、ユーザーが投稿する動画(UGC)のあり方は、日本と諸外国で大きな違いがあるなと感じています。

海外ではユーザーが自分の顔を出す「踊ってみた」動画が流行りやすい一方、日本では海外ではみられない「イラスト描いてみた」の投稿が目立ちます。過去に初音ミクで「踊ってみた」動画の投稿を促すキャンペーンを展開したとき、「踊る初音ミクを書いてみた」という参加の仕方のほうが盛り上がっていたのが印象的です。

徳力 なるほど。参加の仕方の違いこそあれ、音楽コンテンツの視聴規模は、日本とグローバルでそれほど大きな差はないんですね。

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