新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #19

日本の音楽をグローバルに届けるカギは、コミュニティ形成とファンとの共創ー初開催の音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」から得られるヒント

「コラボレーション」で音楽業界はもっと豊かになるはず


佐々木 日本のアーティストをはじめとする発信者の方に向けて「YouTube上でチャンネルをどう大きくしていったらいいか」についてアドバイスさせていただくとすると、その一つに「コラボレーション」があると思います。

日本のアーティストがYouTube上で誰かとコラボレーションする様子ってあまりみられないと思うのですが、海外だと国を超えた楽曲のコラボレーションも、チャンネル上のコラボレーションもたくさんあるんです。

今後世界へと出ていくにあたって、一番大事なのはもちろん「ストーリー」を発信することなのですが、ストーリーに添った「コラボレーション」の要素もあると、より海外への発信力が強まるのではないでしょうか。

徳力 そのあたり、日本はまだマス発想・フィジカル(CD)発想から抜けきれていないのかもしれません。先ほど、YouTubeはコミュニティ(前編の記事へのリンク)だとおっしゃっていましたが、アーティスト同士もコミュニティの中にいるわけで、「コラボレーションしよう」という話になるのは自然な話ですよね。


note noteプロデューサー/ブロガー
徳力 基彦 氏


鬼頭 日本も音楽業界は、諸外国を「マーケット」と捉えてしまうきらいがあると思います。もちろんその一面はあるものの、対等に互いの文化を尊重し合う存在であるという意識を前提として持つことが大切ではないかと思っています。 徳力 世界の音楽コミュニティにきちんと所属して、そこにいるアーティストやファンとコミュニケーションして、ストーリーを紡いでいく。これを、日本のアーティストはもっと意識したほうがいいということですね。

徳力 自分たちの楽曲を売りたい、宣伝したいという気持ちがあまりに先立ってしまうと・・・

鬼頭 せっかく発信しても、部分的にしか聴かれないかもしれません。

徳力 MUSIC AWARDS JAPANなどをきっかけに、日本のアーティストの楽曲がYouTube経由で世界に広がり知られていく上で、ユーザーに貢献できることはあるでしょうか?
 
佐々木 まず前提として、アーティストが世界に出ていくことを応援するマインドは大事ではないかと思います。アーティストが「世界を目指します!」と言ったときに、ファンが「寂しい!」という反応をすることで、海外進出がネガティブな選択になってしまうのはもったいない。音楽業界全体が「日本の音楽を世界へ」という意識を強めている中、ファンも含めて皆でアーティストの選択を応援できるといいのではないかと考えています。



鬼頭 ファンの方が「自分たちがアーティストを応援するグローバルなコミュニティを作っているのだ」という意識を持ってコメントをしたり、場合によってはUGCを作るという応援の仕方があるといいなと思います。

徳力 2024年のコーチェラで、Number_iとジャクソン・ワンがコラボパフォーマンスをした際に、それぞれのファンダムがお互いに温かいコメントをし合っているのがいいなと思ったんです。アーティストの挑戦がファンダムの人の国際交流につながるんだなと感動しました。
 

コミュニティ形成の重要要素・UGCを推奨する環境づくりへ


徳力 一方で日本は「アーティストの素材を無断で使ってはいけない」というルールや風潮が強く、YouTubeの設定がリアクション動画(あるコンテンツに対し、人がリアルタイムで反応する様子を記録した動画を指す)を作れない設定になっていることもまだまだ多いイメージがあります。Content ID(YouTube の自動コンテンツ識別システム)の設定で、広告利用に限らず、そもそも使ってはいけないということが多いような・・・

鬼頭 確かに、過去にはContent IDによって音源を使ったUGCの視聴がブロックされるケースが多かったのですが、現在はそういうケースはほとんどなくなっています。とはいえ過去の経緯があるので、ユーザーの心理的には「チャンネルが閉鎖されるなどリスクがあるのでは」と音源を使ったUGCを敬遠する傾向がまだ根強い。そこは音楽業界の皆さんと連携して認識を変えていく必要があると思っています。

徳力 Content IDによる視聴ブロックは、過去に横行していた不正アップロードの問題を抑止するためには不可欠なものだったと理解していますが、日本を含むグローバルの流れとしては、リアクション動画などのUGCを推奨する方向に進んでいるということですね。

K-POPアーティストやファンをみていると、ファンダムが「推しの海外進出は寂しい」というフェーズを超えて、「私たちが応援するんだ」という意識で動画に全力で字幕をつけたり、事務所がアーティスト素材利用のガイドラインをつくったりしている様子がみられます。

日本のユーザーは“見る専”の方も多いですが、より多くの方に、YouTubeカルチャーにUGCで参加してもらえるようになるといいですよね。日本のアーティストのファンの方に「こういうところから初めて欲しい」ということがあればぜひお聞かせください。

鬼頭 まずはアーティストさんご自身が、YouTube上でファンとどんなコミュニケーションを実現するか、そこの戦略・ポリシーをきちんと持ち、ガイドラインを提示することが大事だと思います。それが明確になると、ファンの方も参加しやすくなると思います。

佐々木 コメント欄やチャットで、国境や言語を超えて交流するところから始めるのはいいかもしれません。昔は「YouTubeにコメントを投稿すると、英語で返信がくるから怖い」なんて言われていた時代もありましたが、昨今はコメント欄に色々な言語のコメントが並ぶのが当たり前になっています。そんなコミュニティに出ていって、参加することを楽しんでいただきたいなと思います。

徳力 確かに、海外のファンがアップしたリアクション動画に、日本のファンがお礼のコメントをしているのをみたことがあります。自動翻訳機能がついているから、そのコメントは外国語で書く必要はなく、日本語で書いたって構わないわけですよね。

まずはコメントから始めて、YouTube上のコミュニティに参加することを楽しむ。これが、日本の音楽をグローバルに広げていく第一歩になりそうですね。

  
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