マーケティングにおけるスポーツコンテンツの価値 #02
「消費者の時間を奪え」バイエルン・ミュンヘンに学ぶ価値の伝え方【アビームコンサルティング 久保田圭一】
バイエルン・ミュンヘンとSAPのパートナーシップ
ブンデスリーガの強豪バイエルン・ミュンヘンは、ファンが試合を観る上で使っている時間(奪っている時間)において、ファンエンゲージメント(ファンにトータルなサービスを提供しロイヤルカスタマーを育成する)を行っている。彼らは、世界的に有名なIT企業であるSAPとタッグを組み、テクノロジーを活用し、ファンが過ごす時間を区切って様々な取り組みを行っている。
① スタジアムまでの移動時間
日本とは異なり、ドイツでは車が主な交通手段となる。交通渋滞が発生すると試合時間に間に合わなくなる可能性があるため、バイエルンはチームアプリを通じて、間に合わない可能性があるファンに対してアプリを通じてパーク&ライド(最寄りの駅やバス停まで車で向かい、そこから公共交通機関を利用すること)を提案する仕組みづくりを検討している。② スタジアム内に到着してから試合までの時間
この時間では、多くのファンがグッズや飲食を購入することになるが、ファンアプリを提示することによりポイントが溜まり、そのポイントで様々な特典が受けられる。また管理側では、入場の混雑を緩和するため、混み具合をスマホの位置情報、あるいは監視カメラの画像分析に基づいてヒートマップ化し、混んでいる入場ゲートにリアルタイムでスタッフを増員できるようにしている。③ 試合後の時間
試合が終わってからスタジアムを退場する際の混雑を緩和するため、飲食店舗の割引クーポンを発行し、待ち時間のストレスを軽減しつつ、売上増加を図っている。さらに、上記で収集したファンの行動・購買履歴に基づき、マーケティングオートメーションによるプロモーションを行い、売上拡大を推進している。
このようにバイエルン・ミュンヘンはSAPのテクノロジーを活用して、ファンの過ごす時間をトータルにサポートすることでファンの満足度・ロイヤリティを高め、売上に繋げるというメリットを得ている。
SAPは、BtoBビジネスを提供する企業であるが、この取り組みにより、一般消費者に対してSAPがスポーツを応援している自分たちに近い存在であることを認知させることに成功している(ファンが共感を持つことができる)。また、一般消費者の中にはビジネスマンも多く、SAPはこんなこともできるのか、と思わせる狙いもあるだろう。スポーツで活用するシステムとはいえ、プラットフォームは通常のビジネスと同じものであり、実績として紹介する際のインパクトは大きい。
バイエルン・ミュンヘンが奪っているファンの時間を、同社は便乗によってうまく活用しているといえる。
このように、スポーツが我々から奪っている”時間”に着目すれば、スポーツと企業との関係は、イベントの協賛、ユニフォームへのロゴ掲出、スタジアムのネーミングライツなどの従来のスポンサーシップだけではなく、その時間を活用して既存のサービスを提供する、あるいは新たなサービスをつくり出すパートナーシップになっていくのではないだろうか。スポーツが継続的に価値を生む存在になるためには、そうあるべきだろう。
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