【読書の秋】視野が広がった、視座が上がった、視点が増えた1冊 #2

クー・マーケティング・カンパニー 音部大輔氏、DAZN 笹本裕氏の「視野が広がった、視座が上がった、視点が増えた1冊」②

前回の記事:
Preferred Networks 富永朋信氏、シンクロ 西井敏恭氏の「視野が広がった、視座が上がった、視点が増えた1冊」①
 昔に比べて短くなった感があるが、だからこそ貴重に思える「秋」。AGENDA Note.では恒例の読書企画として、ビジネスパーソンにトップマーケターが勧めたい本をご紹介する。今年のテーマは「視野が広がった、視座が上がった、視点が増えた1冊」。過ごしやすい季節を最大限活用して、自らの成長につながるお気に入りの本を見つけてみてほしい。
 

クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役 音部大輔氏


知能とはなにか ヒトとAIのあいだ
田口善弘(著)、講談社
 

 AIが急速に進化したいま、「私たちの仕事はもう終わりだ」などと騒ぎ立てる記事を目にすることが増えました。PVは稼げそうですが、それを真に受けて「もう考えるのはやめる」などと知性を放棄してしまうのは、いささか安直です。むしろ、こうした時代だからこそ「そもそも知能とは何か」と立ち止まって考えることに意味があるかもしれません。

 本書は、知能というテーマを多様な角度から照らし出す試みです。なかでも「知能=世界をシミュレートする力」という視点は、きわめて示唆的です。「一を聞いて十を知る」という表現が、単なる賢さの比喩ではなく、世界を頭の中で再構築する営みを直接的に表現していると理解できます。

 私自身、この本を手がかりに「知能とは、頭の中に世界を再構築する能力である」という仮説にたどり着きました。問題解決も、未来予測も、他者理解も、世界を頭の中に再現するからこそ可能になる。知能は、世界を再構築する装置なのです。

 そしてマーケティングもまた、再構築の営みです。属性の順位転換によって「いい商品」の定義を塗り替え、市場のルールを書き換え、新しい価値を生み出していきます。手元の商品をいかに売るか、届けるか、というのはその一部でしかありません。生成AIはそうした思考の助っ人にはなりますが、「どんな世界をつくり直すのか」という問いを立てるのは人間の役割です。

 AIが進歩したからマーケティングは終わりーー。そうした軽佻な言説に振り回される必要はありません。本書は、むしろ「これから人間が担うマーケティングとは何か」を考えるための、格好の素材を与えてくれる1冊です。
 

DAZN 代表取締役社長 笹本裕氏


すごい壁打ち
石川明(著)、サンマーク出版
 

 僕はいつも事業と向き合うときに「問題提起」から考えを始めます。

 英語ではProblem Statementと言いますが、「課題設定」との違いは、「現状とあるべき姿との差異」が課題設定であり、「将来になりたい、なるべき姿と現在の姿との差異を解決すべき問題そのもの」が問題提起と考えています。つまり、課題設定は現在の問題であり、問題提起は未来への課題なのです。

 問題提起そのものには時間をかけて「正しい」問題提起を模索します。問題提起を間違えるといくら解決策を講じても結果は限定的か、失敗へと導かれてしまいます。そこで自問自答や人との「壁打ち」をしながら、「正しい」問題提起へと導くようにしています。

 『すごい壁打ち』はそのような僕の思考プロセスを裏付けてくれるような著書だと思いました。著者の石川氏は長年リクルートの新規事業に携わってきた方であり、個人的にもリクルートの元同期として尊敬しております。当時も雑談の中から企画のアイディアが浮かんできたことがありましたが、現在は多方面で多くの企業の新規事業案件について「壁打ち」を受けていらっしゃいます。

 考え過ぎずに、計画ばかりに時間をかけずに、まずは自問自答したり気軽に壁打ちをしたりすることで、新しい発想や新しい思考が生まれてきます。特にAIの時代にAIそのものが壁打ち対象にもなりえるでしょうが、大切なのはどのようなプロンプト(質問)をぶつけるかです。つまり、「壁打ち」=「プロンプト」であり、正しい問題提起に巡り会えば、解決策は全てが正しい方向に導いてくれると思います。

※記事内で紹介した書籍をリンク先で購入すると、売上の一部がアジェンダノートに還元されることがあります。

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