売れるモノにはワケがある。PR目線で読み解くヒットの構造 #07
ケンドーコバヤシさんと二人旅で発見。NYブロードウェイ「スリープ・ノー・モア」のPR術
ニューヨークで、PR・マーケティングの最前線をキャッチする!
ちょっと前の話になりますが、8月末頃に夏休みをいただき、ニューヨークに行ってきました。ここ数年、お笑いタレントのケンドーコバヤシさんと二人で海外旅行するのが夏の恒例行事になっていまして……ちなみに昨年はサンフランシスコに行きました。
毎年、GW明けに二人して旅行代理店に赴き、担当者の方と相談しながら行き先を決めます。お互いの希望・野望と日程、ツアーの空き状況を勘案し、紆余曲折を経て、今年はニューヨークに決まりました。
せっかく行くのであれば、このコラムのネタになるような、米国PR・マーケティングの最新事情をキャッチしてこよう!と気合い十分で旅立ったわけです。
……が、正直なところ、2年前に訪れたときから大した代わり映えはなく。特筆すべきことはなさそうだと、コラムニストとしてのモチベーションはガタ落ちしつつ、いろいろな場所を観光しました。SOHOで買い物したり、ベンジャミン ステーキハウスで食事をしたり、MoMA(ニューヨーク近代美術館)に行ったり…思い出は尽きません。コラムとは一切関係ありませんが、メトロポリタン美術館で尊敬するデザイナーのトム・ブラウン氏に遭遇し、ツーショット写真を撮ってもらったことが個人的なハイライトです。想像どおりのジェントルマンで、とっても気さくな方でした!
さて、今回ただのニューヨーク観光レポートなんじゃないかと不安に思われた読者の皆さま、ご安心ください。そうこうしているうちに、思わぬところでPRのネタを発見してしまいました。
そこはブロードウェイ。ブロードウェイと言っても、タイムズスクエアに近い、数々の劇場が並ぶメインどころではなく、いわゆる「オフ・ブロードウェイ」※というやつです。
観劇したのは、廃ホテルを劇場として使って上演されている「スリープ・ノー・モア(SLEEP NO MORE)」という作品。今回この作品に、PRの目指すべき姿を見てしまったのです。
※オフ・ブロードウェイ
座席数100~499と比較的規模の小さな劇場で上演されるブロードウェイ作品。低予算ではあるものの、実験的・挑戦的な作品がつくられる傾向にある。
その作品は、メディア受けするキーワードのオンパレード
話を一度、出発前の日本に戻します。「何しよう?」「どこ行こう?」——ケンコバさんとあれこれ話していて、お互い未体験だった、ブロードウェイ・ミュージカルを観劇しようということになりました。
乏しい知識の中にあるブロードウェイ・ミュージカルは、「オペラ座の怪人」や「キャバレー」、「マンマ・ミーア」といった超メジャー作品ばかり。日本では、劇団四季も上演しているものがほとんどでした。
そこで、それぞれ周りの演劇好きや、ニューヨークに詳しい人にリサーチしたところ、多くの人から勧められたのが「スリープ・ノー・モア」だったのです。さっそく検索してみると、そこにはこれまで自分が知っていた舞台やミュージカルとは、明らかに異なるワードがズラリ。
「体験型ミュージカル」
「無言劇」
「廃ホテルの各フロアで、同時進行で芝居が進む」
「観客は全員マスク(仮面)を付ける」
「どこで何を見るかは観客次第」
「モチーフは、シェイクスピアの『マクベス』とヒッチコックの『レベッカ』」
……謎だ。謎だらけだ。
しかし、PR視点で見ても、実に引きの強いワードばかりである。つまり、メディアが記事にしたくなる要素が盛りだくさんなのだ。特に印象的な記事のタイトルは、「スリープ・ノー・モア 今もっともNYで価値のある100ドルの使い道」——そのほか、どの記事を見ても大絶賛なのである。
これは観ない理由がない!ということで、日本でチケットを予約し、いざ現地に向かったのでした。