CATCH THE RISING STAR #31

D2CチョコレートブランドMinimalのβace若手マーケターが目指す「文化になるものづくり」と「クレイジーさ」

前回の記事:
ジョンソン・エンド・ジョンソンの若きマーケターが目指す生活者に寄り添うマーケティング 「コンタクトレンズといえばアキュビュー」が目標
 企業におけるマーケティングの役割と重要性が増す一方、「マーケターの仕事はAIに奪われるのでは」とも囁かれる昨今。そんな変革期にマーケティング領域で働く若者は何を考え、どう行動しているのか。

 次世代を担う「ライジングスター」にフォーカスし、彼らの多彩な思考や行動を探ることでマーケティングの近未来を照射するAGENDA Note.の本連載。31回目となる今回は、チョコレートのスタートアップブランド「Minimal - Bean to Bar Chocolate -」を展開するβaceに2025年7月にジョインした若手マーケター 鈴木伽蓮氏を取材した。「文化になるものづくり」に携わることを目指し、同社取締役COO 緒方恵氏に直談判するなど抜群の行動力を見せる鈴木氏が、MinimalのLTV向上に向けて磨く「クレイジーさ」とは。
 

COO緒方氏に「働かせてください」


ーー 鈴木さんは2025年7月にβaceに転職されてきたと聞きました。マーケターを志した理由や入社の経緯を教えてください。

 まず、マーケティングを志したのは、大学時代のバーのアルバイトがきっかけです。来店されるお客さまには、ニッチだけれど心動かされる素敵な仕事をされている方がたくさんいて、なのにあまり知られていないのがもったいないと思っていました。そういう素敵な仕事を「伝えるプロ」になりたいとマーケターを志望し、人材系企業のマーケティング職に内定を得たのですが、その後、大学の長期休暇で京都のゲストハウスに住み込みで働いたとき、本棚にあった『つづくをつくる』(ナガオカケンメイ著、日経BP)という本に偶然出会って価値観が変わりました。長く愛される「ロングライフデザイン」の概念や、普遍的で優れたものづくりをコツコツ続ける日本企業が、すごくカッコよく思えたんです。

 本で紹介されている京都の企業や店舗を実際に訪れて、さらに共感が強まりました。流行に左右されないものづくりを続けていくのは簡単ではないですが、続けることで「文化」になっていきます。自分もマーケティングの立場から、「文化」になるようなブランドづくり・ものづくりに携わりたいと強く願いました。

 でも、そういう企業は規模が大きくなく、マーケティングの人員も限られている場合が多いです。そこで、まずはマーケティングのスキルを磨こうと決意し、新卒入社した企業でCRMなどの業務に携わり経験を積みました。

ーー 「長く続くものづくり」と言うと伝統企業を連想しますが、スタートアップのβaceに入社したのはなぜだったんですか。

 社会人3年目のころ、キャリアの目標へ近づくような企業を探し始めましたが、希望するような企業の求人は一般的な転職活動ではなかなか見つかりませんでした。そんなとき、以前面識があり、憧れの企業のひとつ「中川政七商店」で取締役CDOを務めていた緒方恵が退任して、今はβaceという会社にいることを知り、思い切って連絡をとりました。すると店舗に招いてくれて、Minimalのチョコレートを食べさせてくれたんです。
 
βace ECチーム
鈴木 伽蓮 氏

 衝撃的でした。香りも味わいも、今までに食べたことがあるチョコレートと全然違う。私は小さい頃からチョコレートが好きだったんですが、Minimalのチョコレートを食べて「自分はカカオが好きだったんだ」と気づきました。チョコレートは日本酒やコーヒーと同様に、「カカオと砂糖」という同じ原材料を使っても、焙煎や加工の仕方でまったく違う味わいや香りになります。バーでアルバイトしていた頃もワインを勉強していたので、近いものを感じました。そして代表の山下貴嗣が提唱する、日本的な「引き算の哲学」をベースとしたものづくりでカカオの美味しさを120%引き出し、新しいチョコレートをつくるという理念にも共感しました。

 日本の伝統的なものづくりに対する姿勢を受け継ぎながら、チョコレートというプロダクトで新しい文化を生み出そうとしている。このブランドはどう成長するんだろう、どんな変貌を遂げるんだろうと思うとワクワクして、自分がその一員として携われたらどんなに幸せだろうと感じました。「働かせてください」と緒方にあらためて頼み、ECチームに加えてもらいました。

ーー 現在のお仕事内容について教えてください。

 CRM領域、特にリピート率向上を主なミッションとして、具体的にはMAツールを使用しながらメルマガやLINEの運用を担当しています。メルマガは比較的古いチャネルではありますが、売上の大部分をオンラインストアが占める当社にとって、予算が集中的に投下されるバレンタインやクリスマス以外にもお客さまとの関係を維持し、継続的にMinimalを楽しんでいただくためにも、強力なチャネルとなっています。日々、新商品や新企画のリリース、品切れ商品の再入荷といったお知らせなど、どんな販促内容をどんな切り口で発信するか、リピート購入につながるシナリオをECチームで議論し、計画を立てて実行しています。

 仕事を始めて驚いたのが、メルマガの開封率の高さです。一般にメルマガの開封率は20%とされますが、当社では40%前後で維持されています。MinimalのECチームがお客さまのニーズを丁寧に分析して取り組んできた賜物だと思います。

ーー すでに高い開封率を誇るメルマガを改善するために、どんな課題があり、どんな工夫をしていますか?

 食品業界で共通する悩みだと思いますが、2回目の購入率がなかなか上がらないのが課題です。当社の規模ではリピートこそが事業成長の要になるので、これまでもさまざまな打ち手を検討し、そのシナリオがたくさん残っています。

 それらの打ち手を超えるリピート購入の仕組みを自分がつくるのは難しいことですが、だからこそ成果が出せたらすごく嬉しいと思います。実は今、自分で構築したシナリオを検証中なので、ドキドキしながら結果が貯まるのを待っているところです(笑)。こんなふうに前職のCRM経験も生かして数ヵ月、試行錯誤して、成果につながりそうな「芽」がいくつか見えてきました。

 ひとつがMinimal Collectiveというメンバーシッププログラムの活用です。カカオ農家とつくり手、お客さまが「三方良し」になることを目指し、ポイントではなく「Impact(社会に対する影響)」を積み上げる方式で、一定レベルに達すると非売品の板チョコレートや特別なチョコレートスイーツといった特別な特典がもらえます。Minimalの理念や、既成概念にとらわれない「クレイジー」を体現しているプログラムです。

 そこで、もう少しでレベルアップしそうなお客さまには、メルマガのバナーなどでそのことをお知らせするようにしています。商品とともに特典を楽しんでいただくことで「Minimalっていつも面白いことをするな」と思っていただける可能性が高まりますし、利益をカカオ農家に還元することにもつながります。

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