新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #22
XGの成功は「イメージ通り」 エグゼクティブ・プロデューサーのSIMON氏に聞く
2025/12/09
日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界でも注目されることが多くなった昨今。本連載は、さまざまなエンタメ領域の舞台裏で、ヒットを生む旗手たちの思考を noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が解き明かしていく。
今回の対談相手は、徳力氏が「初めて自分でチケットを買ってライブに行った」と話すアーティストグループ「XG(エックスジー)」が所属するプロダクション「XGALX」の代表でありエグゼクティブ・プロデューサーのSIMON(サイモン)氏だ。
2022年デビューの7人組。広告・マーケティングに携わる人なら、名前を聞いたことがある人も多いのではないだろうか。というのもXGはデビューから3年間で、世界最大規模の音楽フェス「コーチェラ」にトリで出演を果たし、世界35都市を巡るワールドツアーに40万人を動員。そのツアーのファイナルとして東京ドームで5万人のファンの前で凱旋公演を実現した。日本のテレビ番組にも多数出演するほか、マクドナルドや資生堂、コカ・コーラなどグローバルブランドの広告にも次々と起用されている。数多くのグループがしのぎを削る“群雄割拠”の時代にあって、グループ名の由来「Xtraordinary Girls」が表す通り、まさに「規格外」の活躍を見せているのだ。
さらに、この「世界同時ヒット」は偶然実現したのではなく、狙って達成したものだというから驚く。前編では、なぜSIMON氏が唯一無二・圧倒的存在感のアーティストを、ここ日本でプロデュースしようと考えるに至ったのかを中心に話を聞いた。2017年当時の日本で誰も想像だにしなかった「日本発・世界に通用するアーティスト」を生み出すプロジェクトがスタートした背景とは。
今回の対談相手は、徳力氏が「初めて自分でチケットを買ってライブに行った」と話すアーティストグループ「XG(エックスジー)」が所属するプロダクション「XGALX」の代表でありエグゼクティブ・プロデューサーのSIMON(サイモン)氏だ。
2022年デビューの7人組。広告・マーケティングに携わる人なら、名前を聞いたことがある人も多いのではないだろうか。というのもXGはデビューから3年間で、世界最大規模の音楽フェス「コーチェラ」にトリで出演を果たし、世界35都市を巡るワールドツアーに40万人を動員。そのツアーのファイナルとして東京ドームで5万人のファンの前で凱旋公演を実現した。日本のテレビ番組にも多数出演するほか、マクドナルドや資生堂、コカ・コーラなどグローバルブランドの広告にも次々と起用されている。数多くのグループがしのぎを削る“群雄割拠”の時代にあって、グループ名の由来「Xtraordinary Girls」が表す通り、まさに「規格外」の活躍を見せているのだ。
さらに、この「世界同時ヒット」は偶然実現したのではなく、狙って達成したものだというから驚く。前編では、なぜSIMON氏が唯一無二・圧倒的存在感のアーティストを、ここ日本でプロデュースしようと考えるに至ったのかを中心に話を聞いた。2017年当時の日本で誰も想像だにしなかった「日本発・世界に通用するアーティスト」を生み出すプロジェクトがスタートした背景とは。
「実現したら、死んでも構わない」覚悟が生んだ、日本発・世界に通用するアーティストグループ
徳力 実は、自分でチケットを買ってライブを観に行ったのはXGが初めてなんです。エンターテインメント関連の記事を書き始めた頃に知人からXGを教えてもらい、『NEW DANCE』のMAYAさんのラップを聴いて「これはすごい!本当に日本人のグループ?」と驚き、すっかりハマってしまいました。グローバルツアーのチケットが運良く当選し、特に2025年3月の大阪城ホールの公演は、ステージ間近で観覧することができました。
「日本発・世界に通用するアーティスト」ーー XGALXプロジェクト(注1)がスタートした2017年当時、それが実現できると思っていた人は日本の音楽業界にはいなかったのではないかと思います。プロジェクトの立ち上げからこれまでの足跡を振り返ってみて、現在のXGの成功は予想の範囲内なのでしょうか。それとも予想を超えているのでしょうか。
- 注1:XGALXプロジェクト
SIMON氏が立ち上げたグローバルエンタテインメントプロダクション・XGALX(エックスギャラックス)が2017年にスタートした、世界で勝負できるグループの育成を目指したプロジェクト。オーディションに参加した約1万3000人から15人を選出。日本と韓国での厳しいトレーニング・選抜を勝ち抜いた7人が、2022年にXGとしてデビューした。
SIMON 正直にいうと、イメージ通りです。
徳力 やっぱり! そうおっしゃるんじゃないかなと思ったんです(笑)
SIMON 成功イメージだけは初めから明確に持っていました。それが実現して嬉しい気持ちもありつつ、まだまだこれからとも思っていて。最近は、次の目標に向かってどう動いていくのがベストかを考えるのに、多くの時間を費やしています。

SIMON JUNHO PARK(JAKOPS)氏
XGALX CEO/Executive Producer
1986年にアメリカ・シアトルで生まれる。日韓のミックスで、アメリカ・日本・韓国の3つの国籍とアイデンティティを持つ。米日韓、3ヵ国での音楽活動を経て2010年DMTN(DALMATIAN)のメンバーとしてデビュー。様々な楽曲のプロデュース経歴を持っており、20年近いグローバル市場での音楽活動のノウハウとネットワークを生かし、2017年、同名のエンタテインメント会社、JAKOPSを設立しXGALXを立ち上げる。メンバーの発掘・育成をはじめ、楽曲や映像、ビジュアルなどのクリエイティブ全体の制作、マネージメントなど、すべてにおいて指揮をとり、XGALXの文化や企業風土の構築も務める。2022年、XGALXとして初のプロジェクトとなる7人組ガールズグループ「XG」をデビューさせた。
XGALX CEO/Executive Producer
1986年にアメリカ・シアトルで生まれる。日韓のミックスで、アメリカ・日本・韓国の3つの国籍とアイデンティティを持つ。米日韓、3ヵ国での音楽活動を経て2010年DMTN(DALMATIAN)のメンバーとしてデビュー。様々な楽曲のプロデュース経歴を持っており、20年近いグローバル市場での音楽活動のノウハウとネットワークを生かし、2017年、同名のエンタテインメント会社、JAKOPSを設立しXGALXを立ち上げる。メンバーの発掘・育成をはじめ、楽曲や映像、ビジュアルなどのクリエイティブ全体の制作、マネージメントなど、すべてにおいて指揮をとり、XGALXの文化や企業風土の構築も務める。2022年、XGALXとして初のプロジェクトとなる7人組ガールズグループ「XG」をデビューさせた。
徳力 日本のガールズグループがデビューからわずか3年で世界40万人を動員するワールドツアーを実現し、4年目にコーチェラのSahara(注2)のトリを飾って、東京ドームの凱旋公演で5万人の観客席を満員にする……そんな成功を果たすなんて、SIMONさん以外は誰も予想できなかったはず。野球でいえば、大谷翔平選手のような“信じられない”存在ですよね。
- 注2:Sahara
世界最大規模の音楽フェス「コーチェラ」の中でも、最大規模の屋内ステージ。過去にこのステージでトリに抜擢された日本人アーティストはおらず、XGの出演は異例の大抜擢と言える。
SIMON 自分の中では「こうすれば成功できる」というイメージが明確でしたが、それを実行するにはいろいろなチャンスをいただく必要があります。当時は「信じてもらいたい」という気持ちより、「絶対に実現させる」という意思を伝えることを優先していましたね。
世界に通用する、誰も見たことのない圧倒的なアーティストグループをつくる。5年という長期にわたり、かつ一定の投資を伴う機密プロジェクトとして、これが実現できたら死んでもいいというくらいの覚悟・使命感を持って進めました。
徳力 日本のアーティストは世界では通用しないと言われ続け、正直なところ、私もそのように思い込んでしまっている節がありました。SIMONさんが、XGのような唯一無二のグループを生み出せると信じたきっかけはなんだったのでしょうか。
SIMON 私自身の生い立ちに依るところは大きいと思います。アメリカ生まれ、韓国育ち。母が日本人で、夏休みや冬休みは母方の祖父の家に遊びに行くことも多かったので、日本の影響も多分に受けながら育ちました。
音楽が大好きで、若い時から音楽にすべてをかけてきました。J-POPの黄金期と比べて停滞しているように見える日本の音楽業界。一方、世界市場を目指す戦略で急成長を遂げる韓国の音楽業界。双方の流れを感じながら、韓国の音楽業界でプレイヤー(アーティスト)として、そしてプロデューサーとして活動していました。
アーティストとしてはあまり良い結果を出せなかったものの、作曲家として手がけた楽曲は運よくチャート1位になったこともありました。ところが、そこにも手応えを感じられないというか……「自分が目指していた音楽って、これでいいんだっけ?」と、業界に対する懐疑心も相まって、やりたいことがよくわからなくなってしまった時期があったんです。約10年前、29-30歳頃のことです。自分には音楽しかなかったのに、それが楽しくなくなってしまい、途方にくれました。
徳力 作曲では成功したけれど、それでは満足できない自分に気づいたのですね。
SIMON 成功といっても、いくつかの楽曲がチャート1位になったくらいなのですが……この状態をキープして、楽曲をつくり続ける自信も原動力も、自分にはないと感じました。
そんな状況を脱却するための“新しい風”を求めていましたし、日本と韓国の音楽業界を眺めながら「なぜ、こういうアーティストグループが現れないんだろう?」とモヤモヤと疑問に思っていることもありました。そうして、本当にやりたいことは何かと自分に問い続けた結果、単に楽曲をつくるのではなく、「ゼロから全部つくろう」と思い至ったんです。
それも、ずっと身を置いていた韓国より、“半分母国・半分外様”である日本の地で挑戦するのがいいのではないかと考えました。人生をかけて、停滞気味の日本の音楽業界でゲームチェンジを仕掛けようと行動を起こしました。当時はお金がなく、家賃5万円の半地下の部屋に住んで、声がかかったら日本に渡ってプレゼンしにいく…ということを何度か繰り返していました。
徳力 その苦労や熱意が伝わったんですね。日本に来てくださって、本当にありがとうございます。
SIMONさんには、若い才能を育てて伸ばす、いわゆるK-POPの育成システムを間近で見てきました。その経験を、ガラパゴス的に停滞している日本の音楽業界に持ち込めば、良い化学反応が起こるのではと期待されたのですね。でも当時、日本にそれほどネットワークがあったわけではないですよね。
SIMON はい、唯一つながりがあったのがエイベックスでした。実は2005年頃、一度だけ日本で音楽活動にチャレンジしたことがあって。当時発足したばかりの「エイベックス・アーティストアカデミー」の特待生として、1年半ほど活動していた時期がありました。日本での活動を終えて韓国に戻ってからも、当時の校長とは定期的に連絡を取り続けていました。その校長に私の状況や思いを伝えて、担当者につないでもらいました。ちなみにその校長は、現在XGALXの主要スタッフとして一緒に働いています。
徳力 XGのドキュメンタリーシリーズ「XTRA XTRA(エクストラ エクストラ)」を見て、SIMONさんとエイベックスの間にもともと深い関係があったからXGALXプロジェクトが実現したのだと思い込んでいましたが、全然違うんですね。SIMONさんの行動力がすごい。
K-POPの育成システムがこれだけ機能しているのだから、このシステムに合う人材を見出すことさえできれば、日本でも上手くいくはずだという確信があったのでしょうか。
SIMON 自分自身、アーティストとして育成された経験はありますが、K-POPの育成システムの運用について特別な知識や経験はありませんでした。それに、K-POPグループをつくりたいわけではなかったし、むしろ「なぜこういう画一的なシステムでアーティストをつくるんだろう?」という問題意識すらありました。あくまで、自分が考える理想のアーティストを日本で生み出すことがゴールでした。
育成期間からブレないゴールイメージ
徳力 今年、XGが出演した世界最大規模の音楽フェス「コーチェラ」を、プライベートで観に行きました。コーチェラ出演の裏側は「XTRA XTRA」にも収められていましたが、メンバーのCOCONAさんとHINATAさんがSaharaステージに出る前に「これはヘッドライナーに向けての練習」と発言していたことに衝撃を受けました。XGのゴールはSaharaではなくメインステージなのだと。僕らファンから見ればSaharaだってすごい舞台なのに、それをあくまで通過点として見ていることに凄みを感じましたね。
しかも、その意識はデビュー前の育成期間からずっと変わらないとも言及されていました。XGALXプロジェクトがスタートした2017年当時、コーチェラを目指そうという発想を持つ日本のアーティストはほとんどいなかったと思いますが、SIMONさんはできると信じていて、彼女たちの前でも言い続けたから、「これは夢の途中」という意識が浸透しているのだと思いました。XGが、世界最高峰を本気で目指せるグループになると確信されたのはいつ頃ですか?
SIMON トレーニングや対話を重ねる中で、徐々に私とメンバーの思いが近づき、一致していったように思います。とはいえ、初めから大きなゴールを本気で目指せるメンバーを選抜していた面もあります。合宿形式の過酷なトレーニングを行う過程で「どれだけ大きな夢を思い描き、その夢への思いを強く持ち続けることができるか」を徹底的に見極めました。
メンバーそれぞれに“武器”が違う中で、私が一貫して伝えていたのは「ダンスもボーカルもナンバー1じゃないとダメだ」ということです。自分の得意/不得意や限界を越えてどちらも圧倒的なクオリティまで高め、他のグループには真似できない技術やオーラを習得していく。その経験があるから、あらゆる困難を乗り越えて、ゴールに向かっていけたのだと思います。
私自身の育成時代やデビュー前、デビュー後を振り返ると、自分の才能を過信し、油断して努力を怠ったことがありました。それを心から後悔しているからこそ、彼女たちを過去の自分だと思って厳しく接しました。
徳力 確かに、彼女たちを叱るSIMONさんの表情は、なんだか辛そうにも見えました。それは、過去の自分に伝えるような気持ちだったからなのですね。
SIMON はい。XGのメンバーを見ていると、自分自身を見ているような気持ちになることが少なくありません。




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