新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #22
XGの成功は「イメージ通り」 エグゼクティブ・プロデューサーのSIMON氏に聞く
2025/12/09
楽曲より先に、アーティストのスキルを見せる戦略
徳力 ワールドツアーのファイナル、東京ドーム公演で「XG MOVE #1」のパフォーマンスが始まった時、周りのコアファンが大興奮しているのが印象的でした。「XG MOVE #1」は、デビュー前にXGが初めて世に公開したコンテンツでした。この映像に衝撃を受けてファンになった人も多いと聞きます。
「XG MOVE #1」
「XG MOVE」と、それに続いて公開された「XG TAPE」「XG VOX」は、それぞれメンバーのダンス・ラップ・ボーカルに特化したコンテンツで、楽曲や振付はいずれもカバーや既存のトラックを用いたものです。オリジナルの楽曲を披露することからアーティスト活動をスタートするのが一般的だと思いますが、そうではないパフォーマンスで彼女たちのスキルを見せるところから始めた意図を伺いたいです。
[XG TAPE #1] Chill Bill (JURIN, HARVEY)
[XG VOX #1] Peaches (JURIA, CHISA)
SIMON 彼女たちを初めて世の中に出すとき、いかにシグナルを発して注目してもらうかが重要でした。ダンス・ラップ・ボーカル、どれをとっても唯一無二で圧倒的な彼女たちの実力が、これ以上ないエネルギーをもって伝わるようなやり方を考えた結果、あのような形になりました。アーティストあっての音楽だと思っているので、まずはアーティストのコアな部分を共有していきたいと思ったんです。
「MOVE #1」は育成期間につくり上げた作品で、オリジナルの振付にアレンジを加えながら死ぬほど練習して形にしていったというストーリーがありました。東京ドームの舞台で、ファンの皆さんの前で再び「MOVE #1」をパフォーマンスすることは、デビュー前からずっとイメージし続けていたことでもあります。
徳力 楽曲よりも先に、アーティストのスキルから見せていく。プロモーションの組み立て一つとっても、SIMONさんが「全部ゼロからつくる」意識・覚悟で臨んでいることが伝わってきますね。
成功を信じ、実現するために必要な「イメージの共有」
SIMON ワールドツアーのオープニングでは、サラ・ブライトマンの「Time to Say Goodbye」が流れると同時に、回転する地球の映像をスクリーンに映し出す演出を取り入れています。あれは、XGALXプロジェクトがスタートした当初、小さなスタジオにメンバーやスタッフを全員集めて「これがみんなの初ライブのオープニング演出なんだけど、どう思う?」と見せていたものが元になっているんです。8年前から、プロジェクトの関係者全員が、あの壮大なシーンを強くイメージし続けてきました。
徳力 メンバーはまだ小学6年生や中学2年生だった頃の話ですよね? すごい話だなあ。
XGは、特定のジャンルに固執しない独自の音楽性や、メンバー一人ひとりの高いボーカル&ダンススキルが持ち味です。同時に、J-POPでもKーPOPでもない「X-POP」(様々な偏見や固定観念を脱し、J-POPとK-POPがミックスされどちらも内包しているという意味が込められている)という表現や、「宇宙・宇宙人」というコンセプトは、すごい発明ですよね。宇宙から見たら、J-POPもK-POPも小さな違いにすぎない。物事を見る視点が一気に俯瞰的になり、他グループと相対的に語られる存在ではなくなるんですよね。
SIMON ありがとうございます。新しいものを表現・表明することには批判がつきものですが、批判が生まれるくらい固定観念を崩す姿勢で臨まないと、新しいものはそう簡単に生まれませんよね。
徳力 SIMONさんはメンバーのことを語るときに、よく人間性の話をされますよね。あのメンバーなら、ついスキルの話をしたくなりそうなものですが、そこがSIMONさんの信念なんだろうなと思いました。批判も含めて自分たちのエネルギーにしていくには、人間性が重要なんだろうと。
SIMON 一発ヒット曲を出して終わりのプロジェクトではなく、全員が人生をかけてやっていることなので、これから先、いくらでも過酷な出来事に直面するでしょう。それを乗り越えていくためにも、人間力が大事だと思っています。どんなアーティストにも、好調/不調の波はあるもの。それに左右されないためには、自分は何がしたいのか・自分はどうありたいのかというコアの部分が重要だと思っています。
徳力 インタビュー冒頭で、SIMONさんが「XGの成功を信じ続け、イメージしていた通りになった」と力強くおっしゃっていたのが印象的です。翻って、企業も成功するためには、自社の提供価値を信じることが重要だと思いますが、決して容易なことではありません。ともすると、上手くいかないときに「製品が悪い」「営業が悪い」「マーケティングが悪い」といった責任転嫁も起こると聞きます。どうすれば自社の提供価値を信じ、成功につなげていくことができるでしょうか。
SIMON 何を実現したいか、そのために何をするか。それらを本気で考えた時間の蓄積が自信になると思います。その上で、少し強引なくらいに「自分が絶対上手くいかせてみせる」と思うこと・言うこと・書くことは大事だと思います。自信のない態度や不安は周りに伝播しますし、それが状況を揺るがせることは意外と多いです。
同時に、一人でできることは限られていますから、仲間の巻き込みが重要です。仲間とともにどれだけプレッシャーを楽しみ、批判を飲み込みながら、ゴールに向かって一つひとつ具現化していくか。まずは自分が誰よりも当事者意識を持ち、ゴールを明確に描いて、その成功を信じること。そして周りにも成功イメージを共有することが重要だと思います。
後編に続く
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