新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #23

音楽業界に革命を起こすXG エグゼクティブ・プロデューサー SIMON氏「広告界にも衝撃を与えたい」

前回の記事:
XGの成功は「イメージ通り」 エグゼクティブ・プロデューサーのSIMON氏に聞く
 日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界でも注目されることが多くなった昨今。本連載は、さまざまなエンタメ領域の舞台裏で、ヒットを生む旗手たちの思考を noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が解き明かしていく。

今回の対談相手は、徳力氏が「初めて自分でチケットを買ってライブに行った」と話すアーティストグループ「XG(エックスジー)」が所属するプロダクション「XGALX」の代表でありエグゼクティブ・プロデューサーのSIMON(サイモン)氏だ。

2022年デビューの7人組。広告・マーケティングに携わる人なら、名前を聞いたことがある人も多いのではないだろうか。というのもXGはデビューから3年間で、世界最大規模の音楽フェス「コーチェラ」にトリで出演を果たし、世界35都市を巡るワールドツアーに40万人を動員。そのツアーのファイナルとして東京ドームで5万人のファンの前で凱旋公演を実現した。日本のテレビ番組にも多数出演するほか、マクドナルドや資生堂、コカ・コーラなどグローバルブランドの広告にも次々と起用されている。数多くのグループがしのぎを削る“群雄割拠”の時代にあって、グループ名の由来「Xtraordinary Girls」が表す通り、まさに「規格外」の活躍を見せているのだ。

さらに、この「世界同時ヒット」は偶然達成できたものではなく、狙って達成したものだというから驚く。後編では、日本の音楽業界の常識を超える、XGの取り組みの数々について話を聞いた。SIMON氏が、従来の日本の音楽業界の常識とはあえて逆の選択肢を選び、XGを成功に導いていったプロセスに迫った。
 

国内/海外と分けて考えることに意味はない


徳力 XGは様々な要素で、日本の音楽業界の常識を軽々と超えていっているのが印象的です。『報道ステーション』のインタビューで、SIMONさんが「海外の『進出』とか、『世界は世界で母国は母国』という区別をやめたほうがいい」という発言をされていて、後ろから頭を殴られたような衝撃を受けました。

僕は、日本のエンタメが海外に進出するのを応援している立場ですが、確かに上手くいっているコンテンツほど、「日本で成功してから…」ではなく、最初から世界を見据えているように思います。SIMONさんが、若くしてその視点に辿り着くことができたのはなぜでしょうか。

SIMON 自分の生い立ちが深く関係していることは間違いないと思います。アメリカで生まれて、日本人の母と韓国人の父を持ち、日本と行き来しながら韓国で育ちました。「外」を意識することが当たり前で、自分がいるエリアや、やっていることを見せる対象を狭めて設定する理由がないと思ったんです。
 
SIMON JUNHO PARK(JAKOPS)氏
XGALX CEO/Executive Producer

1986年にアメリカ・シアトルで生まれる。日韓のミックスで、アメリカ・日本・韓国の3つの国籍とアイデンティティを持つ。米日韓、3ヵ国での音楽活動を経て2010年DMTN(DALMATIAN)のメンバーとしてデビュー。様々な楽曲のプロデュース経歴を持っており、20年近いグローバル市場での音楽活動のノウハウとネットワークを生かし、2017年、同名のエンタテインメント会社、JAKOPSを設立しXGALXを立ち上げる。メンバーの発掘・育成をはじめ、楽曲や映像、ビジュアルなどのクリエイティブ全体の制作、マネージメントなど、すべてにおいて指揮をとり、XGALXの文化や企業風土の構築も務める。2022年、XGALXとして初のプロジェクトとなる7人組ガールズグループ「XG」をデビューさせた。

徳力 報道ステーションでは、「たとえ赤字になっても、世界に彼女たち(XG)を直接お見せすることにフォーカスした」という発言も印象的でした。最初から海外のフェスに出ていましたし、MVのクオリティも初期から非常に高かったのをよく覚えています。

とはいえ、XGALXは全員日本人のグループでもあります。まずは日本で売れてから、それを原資に海外へ打って出る。CDが売れた分だけ、MVなどに投資するーーそれが当時の常識ではあったと思うのですが、どのように周囲の理解を得ていったのでしょうか。

SIMON 私が「日本発・世界に通用するアーティストグループをつくる」という野心を胸に来日したのは、ちょうどエイベックス設立30周年の節目。構造改革を進め、「グローバルに通用するIPをつくる」という新しい目標を掲げていた同社は、それを一体誰がつくるのかを迷っていました。そこに、私がやってきたのは運命的だったと思います。周囲の理解を得たというか……とにかく強く宣言したのは、「これは機密プロジェクトで、ある程度の準備期間が必要です。できるだけノイズを入れず、信じて任せてほしい」ということでした。

当初は2020年の東京五輪と同じタイミングでデビューするのが目標だったのですが、コロナ禍の影響で2年ほど延びました。暗黙のプレッシャーもどんどん高まっていましたが、絶対に成功させる自信があったので、信念を持って進めました。
 
ワールドツアー シンガポール公演
 

日本人アーティストでは異例の、撮影OK・SNS拡散OKのルール


徳力 ワールドツアーに参戦した際、ライブの様子を自由に撮影できることに驚きました。僕はもともとブロガーで、すべてを記録しようとする習性があるもので…撮影ができることが、チケットを買おうと思ったきっかけの一つでした。

撮影OKどころか、公式サイトなどでは「XGを宇宙に送ろう」とSNS拡散も推奨していて、日本の音楽業界の常識と真逆の対応が印象的でした。当時はまだ、ライブ撮影OKの日本人アーティストは非常に少なく、“御法度”のイメージが強かったのですが、この判断にはどのような背景があるのでしょうか。

SIMON まず、「撮影せずに目の前のパフォーマンスに集中しよう」という日本のライブ文化はとても素敵だと思っているんです。一方海外では、撮影・拡散されるのが当たり前になっている。そういう時代の流れの中で、徐々に日本も「ルール上はNGだけど、暗黙で許されている…」というどっちつかずの状況になってきていて、それが何だか気持ち悪かったんです(笑)。撮る人は遠慮しながら撮り、撮らない人は我慢してストレスを感じる。そんな中途半端な状態にしておくより、「みんな撮っていいですよ!撮ってみんなで楽しみましょう!」とはっきりと宣言したらどうかな? という話になりました。
 
ワールドツアー ファイナル、東京ドーム公演の様子

徳力 僕のような立場からすると、ありがたいことです。大阪城ホールの公演で恐る恐る撮ってみてYouTubeにアップしてみたら、ものの数十秒で海外から「アップしてくれてありがとう!」とお礼のコメントがついたんです。こんなふうに、XGの魅力を広げていくことに、ファンが貢献できるのはいいことだなと感じました。

SIMON ありがとうございます。一方で最近は、別のことも考えているんです。私はライブの際にFOH(Front of House:観客席側のメインの音響卓)にいることが多いのですが、ワールドツアーで世界40都市を回る中で、観客席のほぼ全員がスマホをアーティストに向けている様子を見続けてきました。もちろん、それはそれで夢見続けてきた景色なのですが、ツアー後半くらいからだんだん「この状況は、果たして本質と言えるんだろうか」という疑問が浮かんできてしまって。

撮影OKだと、どうしても画面を見てしまいますよね。でも、せっかくライブに来てもらったのなら、やはり画面ではなく直接見てほしいし、空気を感じてほしい。音とビジュアルと歓声のセットを、全細胞で感じてもらいたいという気持ちがあります。

まだ具体的な計画はないのですが、いずれ撮影禁止のツアーをやってみようかなとも思っています。今の若い世代は「撮りながら見る」のが当たり前になっていると思うので、一度「撮らずに見る」ことも提案してみたいんです。そういう機会でもないと、なかなか「撮らずに見る」ことを体験しづらいと思うので。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録