TOP PLAYER INTERVIEW #95

アマゾンジャパン出身の田丸知加氏が「和食さと」のSRSホールディングスでDX推進 「変革」に求められる要諦とは

前回の記事:
本物しか売らない。競争激化のプロテイン市場を勝ち抜くVALXの戦略
 従来、飲食店におけるDXは遅れていると指摘されてきたが、「和食さと」などを運営するSRSホールディングスは中期経営計画で掲げる「和食チェーングループ圧倒的No.1の実現」に向けて、収益基盤確立のためのDXに着手。2025年7月にはアマゾンジャパンやセブン・アイ&ホールディングス、西友、サンドラッグのDX・ECを牽引してきた田丸知加氏がDX推進本部長に就任し、グループ共通のシステム基盤や、各ブランドコンセプトに沿ったDX戦略・施策の構築に取り組んでいる。

 小売業や飲食業におけるDXは必ずしも成功しないケースが多い中、「変革のプロ」を自認する田丸氏はどのように改革に取り組むのか。従来のシステムを大きく塗り替えるDX推進の要諦を聞いた。
 

アマゾンで培った変革力


―― 田丸さんはアマゾンジャパンをはじめとする小売・EC業界で活躍され、今年7月にSRSホールディングスに参画されました。飲食業は初めてとのことですが、ご自身のどんな「強み」が生かせると判断されたのでしょうか。

 DXを推進するうえで、商品を仕入れてお客さまに提供するという形であれば、業界の違いは大きな問題ではないと思っています。私の経歴を見ると小売やECといったキーワードが目につきますし、確かに人並み以上に詳しいですが、どちらかと言えば何かを変革するときの「推進力そのもの」が、自身の強みだと考えています。

 Amazonは今でこそ「ECの代表者」になっていますが、2003年に私がアマゾンジャパンに入社したときは、サイトは1日1回しか更新されない、出版社からは商品情報をFAXで受け取りExcelで作業するといった、ほとんどデジタル化されていない会社でした。
 
SRSホールディングス SRSグループDX推進本部長 執行役員/サトフードサービス 取締役/フーズネット 取締役
田丸 知加 氏

大手通信会社を経て2003年アマゾンジャパンに入社。16年にわたり小売部門にて全商品の商品登録から販売、販売後の販売促進、マーケティングや広告、運用まで、カテゴリー横断の多数サービス・業務改革・プロダクトの日本責任者に従事。その後セブン&アイ・ホールディングスにてデジタル戦略企画部長としてグループ横断のDX・EC推進、新規事業立案を行う。Walmartの子会社であった西友に参画し、OMO施策や楽天西友ネットスーパーの新規事業開発など幅広く従事。2021年にサンドラッグに参入。執行役員としてECを中心に変革し、2022年に日本オムニチャネル協会フェローに就任。2025年7月、SRSホールディングス 執行役員グループDX推進本部長、2025年11月 サトフードサービス取締役、フーズネット取締役就任。

 元々、大学の工学部で細胞研究をしており、計算式を使った予測・分析を繰り返していたので、テクニカル面のベースはありました。でも、普及し始めていたインターネットは使った経験がほとんどなく、もちろん小売やECに携わるのも初めてだったので、最初は知らないことばかりでものすごく苦労しました。しかも社内公用語は英語です。

 当時は日本法人が立ち上がったばかりで、日本から米国本社に何かリクエストしても、返事がなかったり、「本当に必要なのか?」と返ってきたりしました。そこで「しっかり説明しないと認めてもらえない」と、たくさん調べるわけです。 社内システムの話だけでなく、商品も書籍・家電・アパレル・食品などカテゴリによって日米で商慣習が異なる部分があるので、把握すべき事柄はたくさんありました。

 2006年頃から、米国本社がさまざまな自動化やセルフサービス化に急速に注力しはじめ、日本にもツール導入の指示がありました。それまで自社内はもちろん取引先ともFAXやメールでやり取りをしていたのに、いきなりWeb上で完結するセルフサービスを利用しなければならなくなったのです。当然、社内外で拒否反応が起こりましたが、私が日本側の窓口責任者となってやり切った結果、ツールが定着し、商品数を飛躍的に増やすことができました。

―― いきなり新しいデジタルツールを導入し、社内だけでなく取引先にも利用してもらうのは大変だと思いますが、どのように乗り越えたのですか。

 これは現在も、特に高齢の方が営まれている飲食業や小売店には実態として見られることですが、パソコン自体を使い慣れていない方もいらっしゃいます。Amazonのサイトに出すから、ツールにログインして商品画像をJPEGファイルで送ってくださいとかなり丁寧に説明しても、Excelファイルに「JPEG」と文字で書いて送ってこられた業者もいました。特に経営者はデジタルに関して得意・不得意が明確に分かれがちで、不得意だと「システム導入にこれくらいの経費がかかるが、使いこなせばこれくらい圧縮できる」と説明しても、「本当か?」と疑われます。そういう場合はカタカナ語を日本語に置き換え、図を書きながら説明することもありました。

 新しいデジタルツールやシステムを導入する場合は、ビジネスサイドに立った丁寧な説明が不可欠であることを、私はアマゾンジャパンで叩き込まれました。システムサイドの専門用語で無理に理解させようとしても、反発が強まるだけです。

 その後もアマゾンジャパンの小売部門においてシステムの新規導入や運用変更などがある際は私が先頭に立つ機会が何度もあり、結果として、既成の概念をリセットして新しいものに置き換える「変革」が強みとして磨かれました。

―― 現在のAmazonからは想像できませんが、デジタル化の裏側ではそんな苦労があったのですね。16年勤めたアマゾンジャパンを辞めたのはなぜだったのでしょうか。

 アマゾンジャパンでの16年は、感覚的には100年分に相当するくらい変化に富んだもので、十分やり切ったと感じました。他方、何かをドラスティックに変えることに慣れていない日系企業では、ECやDXの現状を変えたいと感じつつ、改革に苦労している例が散見されました。仕組みを大きく変えるには、ビジネスとシステム両方の知見とバランス感覚が必要です。システムを変えただけではビジネス側の運用が追いつきませんし、ビジネス側の要望をすべて受け入れていてはラディカルな変化はできませんから。

 その点、ビジネスとシステムの両方の知見・経験を持つ私はお役に立てることがあると思い、「変わりたい」という強い意志を持つ日系企業の変革に参画していくことにしました。特に前職のサンドラッグでは組織、人材、システム、運用とすべて入れ替え、ECの売上は大きく拡大しました。

 SRSホールディングスも、自分の強みを生かしながらチャレンジできる場所だと考え、入社させていただきました。

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