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ジャングリア沖縄が証明する「テーマパークは多様なマーケティング人材が育つ場所」ジャパンエンターテイメント加藤CEO 1万字インタビュー

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 7月25日、沖縄に新たなテーマパーク「JUNGLIA OKINAWA(ジャングリア沖縄)」が誕生した。舞台は、名護市と今帰仁村にまたがる「やんばるの森」。総事業費700億円を投じ、沖縄の大自然・文化・人の魅力を体験価値へと昇華させた、これまでにない規模とコンセプトのテーマパークだ。

 運営するジャパンエンターテイメントは、2018年に森岡毅氏率いる刀を筆頭株主として設立。オリオンビール、リウボウ、ゆがふなど沖縄の主要企業(社数ベースでは7割が沖縄企業)に加えて国内大手も参画し、開業前からマーケティング業界のみならず、広く産業界の注目を集めてきた。開業直後は、待ち時間の長さや悪天候時の受け入れ体制などに対する厳しい声もあったが、日々改善を積み重ね、先日には新たな絶叫系アトラクションの導入が発表されるなど、わずか4ヵ月という期間に進化が加速している。

 この前例のないプロジェクトを構想段階から牽引し、資金調達、地域事業者の巻き込み、事業開発までを先頭に立って推進してきたのが、同社代表取締役CEOの加藤健史氏だ。今回は、「ジャングリア沖縄が実現しようとしている本当の価値とは何か」をテーマに、これまでの試行錯誤から見えてきた手応えと課題、パークの今後の展望、そしてテーマパークという事業が持つビジネスとしての可能性や、マーケティング人材を育成する環境としてのポテンシャルについて聞いた。
 

重要ミッションのひとつは、観光に特化したマーケティング人材の育成


— テーマパーク「ジャングリア沖縄」について伺う前に、ジャパンエンターテイメントが沖縄で推進する一連のプロジェクトの前提を、改めて確認させてください。もともとテーマパークありきではなく、「地域の価値を消費者価値へと転換し、そこに暮らす人も訪れる人も豊かにする」ことを目標としており、その手段のひとつとしてテーマパークを位置づけた、という理解でよろしいでしょうか。

 おっしゃる通りです。ジャパンエンターテイメントは「沖縄から日本の“未来”をつくる」をミッションとして掲げています。沖縄がもともと持つ素晴らしい観光ポテンシャルを捉え、観光産業のフロントランナーである沖縄が抱える課題やチャレンジに地域とともに向き合い乗り越えていくことが、観光立国・日本全体の産業発展に直結すると考えています。

 私たちがさまざまな地域の観光産業において特に伸びしろのある課題と考えている点は、大きく4つあります。 1つ目は、地域のブランド力の向上です。そしてそのブランド力を高めるために必要となるのが、2つ目の「高度観光人材」の育成です。高度観光人材というと、一般的には観光領域のマネジメント人材を指すことが多いのですが、私たちはそれを「観光事業領域のマーケティング人材」と再定義しています。マネジメントに携わる人も、ジャングリア沖縄で活躍する“ナビゲーター”のような現場で顧客に接する人も、アプローチは異なれど「消費者価値を生み出す」という目的は同じ。つまり観光産業に関わるすべての人はマーケター的視点を持つ人であり、観光に特化したマーケターを育てていくことが不可欠だと捉えています。

 3つ目は、オーバーツーリズムにならないための交通課題の解決です。開業前から「渋滞はどうなるのか」といったご指摘を多数いただきましたが、重要なのは、渋滞そのものをどう抑えるかという発想に終始せず、地域住民の交通と観光客の交通をいかに両立させ、地域が持続的に発展するための仕組みをどう構築するかということだと考えています。

 そして4つ目が、地域が稼げる仕組みをつくることです。外部資本が入っても、そこで生まれた利益が地域に還元されにくいという課題があります。地元事業者と外部事業者がともに成長できる構造を整えていかなければなりません。

 これら4つの課題を解決し、「地域にある価値を消費者価値へと転換する」ことを実現するビジネスモデルとして、テーマパークを選びました。飲食、物販、アトラクション体験など、その地でしか味わえない魅力を提供するテーマパーク事業が地域で持続的に発展することが、やがて地域全体、そして日本の産業の発展へと波及していく起点となる。私たちの事業は、まさにその未来を目指した取り組みです。
 
ジャパンエンターテイメント 
代表取締役CEO
加藤健史氏

早稲田大学卒業後、2000年にユニバーサル・スタジオ・ジャパンを運営するユー・エス・ジェイに入社。新規アトラクションを複数立上げ、高効率なオペレーション開発に従事した後、飲食部門・物販部門にてビジネスアナリストを務める。2018年に株式会社ジャパンエンターテイメントを設立。2025年7月にジャングリア沖縄をオープンさせた。

ジャパンエンターテイメントは「地域の価値を消費者の価値へ、持続可能な事業を実現する」という方針を掲げています。それを実現する方法は必ずしも観光事業やテーマパークに限らないと思いますが、なぜこの分野にフォーカスするのでしょうか。

 私たちは、「地域の価値」に焦点を当てた事業をつくることが、日本全体の活性化につながると考えました。その地に根ざした持続可能な事業モデルを構築し、それを足がかりにさらに大きな成長を目指すという方針です。

 沖縄だけでなく日本の各地域には、まだ消費者価値として十分に顕在化していない魅力的な資源(産品・風景・体験など)が豊富に存在します。しかし、それらが消費者の元に届き価値として成立するまでのプロセスが上手く機能していないケースが少なくありません。このギャップこそ、私たちのマーケティング経験を活かし、地域とともに解決していくべき課題であり、微力ながら貢献できる領域だと捉えています。

 テーマパークは、一事業のなかにエンターテイメントだけでなく、その地での飲食や物販などの消費、周辺の交通や宿泊なども含めた「経済のマルチプライヤー(増幅装置)」としての、変化の起点となれる可能性が高いと考えています。

 観光による地域活性化の具体的な方法としては、たとえば地元事業者と連携したツアーの企画やグランピングなども考えられると思います。さまざまな可能性がある中で、「持続可能で地域に根ざした観光モデルの創出を通じて、日本全体の活力向上に寄与しよう」という意思決定があり、観光事業、特にテーマパーク事業にフォーカスすることになりました。

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