日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #63

クアーズと大谷翔平、JFEスチールとサンドウィッチマン 共通点は「乗っかり力」

 

大谷翔平選手のハプニングを「乗っかり力」で活用しきったクアーズライト


 海外の事例で「乗っかり力」が際立っているのは、カンヌライオンズ2024の話題作となった、ビールブランド Coors Light(クアーズライト)の「クアーズライト・アウト」が挙げられるでしょう。この事例は、ブランドエクスペリエンス&アクティベーション部門ゴールド等を受賞しました。

 エンジェルス時代の大谷翔平選手の大きなファウルボールが、外野の一角に設けられていたクアーズライトのデジタルサイネージを直撃したのが事の始まり。その一撃は、デジタルサイネージに映し出されたクアーズライトの缶の左上、CoorsのCの真上あたりに真四角の黒い穴をあけたのです。この状況は、コアな野球ファンの間で瞬く間にSNSで広まりました。

 クアーズライトの担当者たちは、一見ネガティブな状況を逆手に取り、素晴らしい「乗っかり力」で、みごとにポジティブに変換してみせました。この四角い穴を、野球ファンのメモリアルな事象として、位置づけようと試みたのです。

 まず、ファウルボール直撃から48時間で、CoorsのCの上のところに四角い穴があいたように見えるデザインの缶を製造・販売しました。そして、通常のサイネージや屋外広告に出される缶も、この四角い穴あき缶に変更しました。エンゼル・スタジアム・オブ・アナハイムのすべての広告にこの穴あき缶を登場させ、クアーズ側が広告に穴を開けているかのようにふるまったのです。

 この四角い穴あき缶と、その缶をフィーチャーした四角い穴のあい「壊れた広告」は、一夜にして広範囲に拡散しました。四角い穴あき缶は、24時間足らずで売り切れます。購入できなかった野球ファンはあきらめきれず、世界最大規模のマーケットプレイス・ebayで、70ドル(約9,800円)もの値段で売り買いされるまでになります。四角い穴のあいた「壊れた広告」自体には、オークションで7,000ドル(約250,000円)もの高値がついたと言います。

 さらに、コアなファンは、普通のクアーズライト缶にマジックで四角い穴らしきものを描いたり、クアーズライトTシャツの同じ位置(Cのすぐ上)に、穴に見える四角を描いたりし始めます。また、この話を聞きつけた一部の日本の方々もSNSで欲しいと発信し始め、それを知ったクアーズ側は、日本でも四角い穴あき缶を発売し、ニュース番組でも取り上げられました。

 クアーズ側が制作した事例ビデオにも「UNOFFICIAL SPORTS SPONSORSHIP」と掲載されているように、大リーグ側にも大谷翔平選手個人にも、1ドルも支払われていません。大リーグや大谷翔平選手には何も迷惑や負担はかけていないわけですから、そういう意味で支払う必要もないと言えるでしょう。登場するのは、大谷翔平選手本人ではなく、大谷翔平選手の打球で壊れた広告と、それを再現した穴あき缶だけなのですから。
 

「クアーズライト・アウト」ケースビデオ

 それなのに、「大リーグ公式ビール」(ライバルであるバドワイザーを指すと思われます)よりも話題になり、「BREAKING THE MOLD OF SPORTSMARKETING WITH ONE BROKEN AD(ひとつの壊れた広告で、スポーツマーケティングの型を壊した)」と記されています。

 自社のデジタルサイネージ広告の一角にファールボールで穴が空くという困った状況・ネガティブな環境でさえ、「乗っかり力」で上手に活用してみる。機会を逃さず、フットワーク軽く発想し、素早く実行する。そんな「乗っかり力」は、広告コミュニケーションの重要な武器になり得ます。もちろん、そのためには、普段からそうした社内カルチャーを醸成しておくことも必要となるでしょう。

 自分たちの伝えたいメッセージを、パワーを持って広く知らしめたいのであれば、タレント起用など、既存のパワーに上手に「乗っかる」ことも重要です。いろいろな局面で、「乗っかり力」を発揮するという視点で施策を考えてみるのも、悪くはなさそうです。
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