マーケティング・ビジネス課題を解決する学術研究 #09

巨大プラットフォームに乗ってしまっていいのか? 経営学者たちの「6つの提言」から採るべき方向を見定める

 

「プラットフォームとどう向き合うべきか」提言④~⑥


提言④ (Kopalle et al. 2020)

 4つ目の提言は、ダートマス大学タックビジネススクールのプラヴィーン・K・コパル教授とジョージア州立大学ロビンソン・カレッジ・オブ・ビジネスのV・クマール教授、ボストン・カレッジ キャロル・スクール・オブ・マネジメントのモハン・スブラマニアム准教授らのものです。

 彼らは、従来型企業は、単にプラットフォーム企業を模倣するのではなく、自社の「パイプライン型」ビジネスモデルを生かしつつ、デジタルエコシステムに適応すべきであると主張しています。その核心は、IoTなどを活用して顧客の「使用中情報(in-use information)」を収集し、それを「生産エコシステム」と「消費エコシステム」の2つの異なるエコシステムで活用することにあります。(Kopalle et al. 2020)。
 
  1. 生産エコシステムにおける活用

    生産エコシステムは、調達、R&D、製造といった従来のバリューチェーン内の相互依存関係を指す。企業は製品センサーから得た「使用中情報」をこのシステム内で共有することで、既存のパイプライン機能を強化できる。具体的には、個々の使用状況に応じた「マスカスタマイゼーション」や、部品の摩耗データに基づく「予知保全」などが可能となり、顧客体験をリアルタイムで最適化できる。

  2. 消費エコシステムにおける活用

    消費エコシステムは、製品の使用時に生じる補完的な製品やシステムとの相互依存関係を指す。IoTを通じて「使用中情報」を外部のサードパーティや他の接続機器と共有することで、企業は自社製品を「プラットフォーム」へと拡張できる。たとえば、スマート電球がセキュリティシステムと連携するなど、製品単体では不可能な新たなサービスや価値交換を創出することが可能である。

 これらの変革を実現するには、長期的視点に基づくインセンティブ設計、リスクを許容する企業文化、そして既存のルーチンから独立した組織構造の整備が不可欠であると主張しています。

提言⑤ (Hagiu & Weight 2021)

 5つ目の提言は、ボストン大学のアンドレイ・ハジウ准教授とシンガポール国立大学のジュリアン・ライト教授らのものです。

 彼らは、BtoCの製品を提供する従来型のメーカーやサービスを提供するレストラン、ホテル、小売、コンテンツなどの企業は、プラットフォームを回避するのではなく、自社の成長のために利用しながら、同時に自らの強みを確立しやすい「深掘り」戦略を追求し、広報活動・ロビー活動による抵抗を展開する、したたかな戦略をとるべきだと主張しています(Hagiu & Weight 2021)。
 
  1. 自社の販売チャネルの育成

    プラットフォームへの依存によるコモディティ化を防ぐため、自社の販売チャネルに投資する。Shopifyなど自社ブランドをオンラインで販売するために必要なデジタルツール類とインフラを提供するサービスなどを用いて、顧客関係を自社で管理できる基盤を整える。自社のブランド名を冠したウェブサイトやアプリを展開し、複数のプラットフォームに出店することにより、特定のプラットフォームへの依存度を減らすことができる。

  2. 「ショールーム」としての利用

    プラットフォームを「ショールーム」として扱う。プラットフォームの集客力を利用して新規顧客を獲得しつつ、2回目以降の購入は自社の販売チャネルへ誘導する。これには、商品に自社チャネル用クーポンを同梱したり、自社チャネル限定の特典(客室アップグレード等)を用意したりする戦術が有効である。これによってプラットフォームによる顧客関係の分断を防ぐことができる。

  3. 「深掘り」戦略の採用

    競争戦略として「深掘り(Go Deep)」を選択する。プラットフォームの機能を活用して多角的に商品を展開する「広展開(Go Broad)」はプラットフォーム・ネイティブな新興企業に向いているが、既存の強力な製品を持つ従来型企業は、その強みをプラットフォームに適応させ、特定のニッチ分野で圧倒的な評価を獲得する方が競争優位を築きやすい。

  4. 広報活動・ロビー活動による抵抗

    規制当局の監視強化を追い風に、不当な手数料や待遇に対して政治的・法的な圧力をかける。受動的にプラットフォームに従うのではなく、同業者と連携して声を上げ、より有利な条件を勝ち取ることを推奨する。

提言⑥ (Adner 2021)

 6つ目の提言は、ダートマス大学タックビジネススクールのロン・アドナー教授のものです。彼は、従来型企業はプラットフォームに対し、単独での正面突破ではなく、パートナーとの「連携」と「価値構造の再定義」によって向き合うべきだと主張しています(Adner 2021)。
 
  1. 価値構造の見直し

    戦いの土俵である「価値構造」を見直す。プラットフォームは産業の境界を越えて攻撃してくるため、Wayfair(家具・インテリアのオンライン小売企業)がAmazonに対し「発見」や「検討」という独自の価値要素を強化して対抗したように、自社の提供価値の構造自体を修正し、差別化を図る。

  2. 集合的な防衛

    巨大企業に対し単独で勝利するのは困難なため、「集合的な防衛(Collective Defense)」を構築する。TomTom(地図データ提供事業者)がGoogleに対抗して、データを独占しない姿勢でAppleやUberと提携したように、共通の利害を持つパートナーと連合を組み、防御可能な領域(ニッチ)を確保する。

  3. エコシステム・キャリーオーバーの活用

    既存企業は、それまでのエコシステムの構築において開発・確立された要素(例: パートナー関係や顧客との信頼関係)をテコにして、新しい別のエコシステムの構築を成功させる「エコシステム・キャリーオーバー」を追求する。ASSA ABLOY(機械式の錠前と鍵の製造メーカー)が鍵屋との既存関係を生かしてデジタルへ移行したように、長年培った顧客やパートナーとの信頼関係を生かして新しいエコシステムを構築することが有効だ。

 これらを遂行するには、自社中心の「エゴシステム」の罠を避け、パートナーを整列させる「アラインメント」の視座を持つことが不可欠であると主張しています。

 

6つの提言に共通する「現状認識」と「アプローチの選択肢」


 これら6つの提言に共通しているのは、以下の3つの現状認識と方向性であると言えるでしょう。
 
  • 「現状維持(Do Nothing)」は死を意味する

    どの提言も、従来のパイプライン型ビジネスモデルをそのまま続けることは不可能であり、何らかの形でプラットフォームの力学に対応しなければ「退場(Exit)」や「衰退」に至ると警告している。

  • 「内部」から「外部」への視点シフト

    自社所有の資源や内部プロセスの最適化だけでは勝てないという点で一致している。外部パートナー、顧客コミュニティ、あるいは競合プラットフォームさえも含む「エコシステム」との相互作用を管理・活用することが必須とされる。

  • データとデジタルの戦略的活用

    IoTによるデータ収集(提言④)、デジタルによる相互作用の促進(提言①)、デジタルビジネス・アジリティ(提言②)など、デジタルトランスフォーメーション(DX)が単なるIT化ではなく、競争戦略の根幹であるとする。

  •  その一方で、採るべきアプローチについては、「根本的転換」「選択的適応」「ハブリッド」の3つに分類できそうです。
     
    • 根本的転換:「自らがプラットフォームになるべき」

      最も急進的で、組織のあり方を根本から変えることを求めるアプローチ。提言① (Van Alystyne et al.)は完全転換派。プラットフォームは従来型に「勝つ」と断言。対抗するには自らもプラットフォーム戦略を取り入れ、資源の「管理」をやめて「統合(オーケストレーション)」へ移行すべきと説く。

    • 選択的適応:「必ずしもつくる必要はない/逃げるのも戦略」

      自社構築にこだわらず、買収や提携、時には撤退も含めた現実的な選択肢を提示するアプローチ。提言② (Wade et al.)はアジリティ(俊敏性)重視。破壊に対抗するだけでなく、「収穫(延命)」や「撤退」も立派な戦略と位置づける。市場の「価値の空白地帯」を見つけ、状況に応じて攻守を素早く切り替える「俊敏性」を最重視する。

      提言③ (Cusumano et al.)はポジションの選択(Build、Buy、or Join) 。自社構築(Build)は難易度が高いと認め、Amazonのような巨人に「所属(Join)」したり、技術を「買収(Buy)」したりする選択肢。リスク管理(ホールドアップ問題への対処)を重視する。

    • ハイブリッド:「既存の強み+αで戦う」

      プラットフォームの土俵に上がりつつも、自社の強み(製品、信頼、データ、政治力)を維持・強化する「したたかな」アプローチ。提言④ (Kopalle et al.)はデータ融合(IoT活用)によって、パイプライン(製品づくり)を捨てるのではなく、IoTデータ(使用中情報)を使って製品をプラットフォーム的に「拡張」させる道を説く。物理製品を持つ企業ならではの戦い方と言える。

      提言⑤ (Hagiu & Wright)は、したたかな利用と政治的抵抗。プラットフォームを集客装置(ショールーム)として利用しつつ、リピート客は自社に囲い込む二重戦略。また「ロビー活動」や「規制活用」を明示的に戦略に組み込む。

      提言⑥ (Adner)は構造改革と連合軍。単独で戦わず、パートナーと「集合的な防衛(連合軍)」をつくる。また、既存の顧客関係(エコシステム・キャリーオーバー)をテコにして、戦いの土俵(価値構造)自体を再定義する。

    •  

      自社はどうする?考え方のヒント


       あなたの携わっているビジネスには、どれがフィットしそうでしょうか?

       「従来型の企業がプラットフォームにどう向き合うべきか」という問いは、最近、「AIにどう向き合うべきか」という問いが急増している中で、かつてよりも質問される頻度はやや少なくなったようにも感じます。

       しかしながら、「AIにどう向き合うか」という問いに対する回答は、AIだけを考えていても、そこで着目されている技術に対する「コインの裏返し」的な答え(例: 生成AIは要約ができる→議事録を作成させることでビジネスが効率化する)しか、見えてこないかもしれません。

       より本質的にAIへの向き合い方を考えるのであれば、「AIが誰によって、どのように活用されるか」という考察が必須になります(参考:AI活用が「議事録作成」で終わっている人へ マイケル・ポーターが40年前に言い当てた新技術を活用できる思考法とは)。

       その際、この「誰」が「プラットフォーム」、あるいはプラットフォームに向き合う「自社」となる可能性は、非常に高いのではないでしょうか。

       とするならば、そもそもプラットフォームがどういう存在か、そして「従来型の企業がプラットフォームにどう向き合うべきか」について、これまでの議論を一度振り返っておくのは、有意義な試みと言えるでしょう。

      (文中で言及した論者の所属や肩書は、断りがない限り論文発表当時のものです。)
       

      〈参考文献〉

      Eisenmann, T. R., Parker, G., & Van Alstyne, M. W. (2006). Strategies for two sided markets. Harvard Business Review, 84(10), 92-101 (松本直子訳 「ツーサイド・プラットフォーム戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』June 2007, 68-81.)

      Hagiu, A., & Yoffie, D. B. (2009). What's your Google strategy. Harvard Business Review, 87(4), 74-81. (二見聡子訳 「あなたの会社の『グーグル戦略』」を考える」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』August 2009, 22-33.)

      根来龍之. (2019). 『集中講義デジタル戦略 テクノロジーバトルのフレームワーク』日経BP, 2019年.

      Van Alstyne, M. W., Parker, G. G., & Choudary, S. P. (2016). Pipelines, platforms, and the new rules of strategy. Harvard Business Review, 94(4), 54-62. (有賀裕子訳「プラットフォーム革命」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』October 2016, 26-38.)

      Wade, M., Loucks, J., Macaulay,J., & Noronha, A. (2016). Digital Vortex: How Today’s Market Leaders Can Beat Disruptive Competitors at Their Own Game. DBT Center Press. (根来龍之監訳、武藤 陽生・デジタルビジネス・イノベーションセンター訳, 『対デジタル・ディスラプター戦略』日本経済新聞出版, 2017年.)

      Cusumano, M. A., Gawer, A., & Yoffie, D. B. (2019). The business of platforms: Strategy in the age of digital competition, innovation, and power (Vol. 320, pp. 1-5). New York: Harper Business. (青島矢一監訳、齋藤靖・高永才・高田直樹・谷口諒・積田淳史・久保田達也・松嶋一成・三木朋乃訳『プラットフォームビジネス:デジタル時代を支配する力と陥穽』有斐閣, 2020年)

      Kopalle, P. K., Kumar, V., & Subramaniam, M. (2020). How legacy firms can embrace the digital ecosystem via digital customer orientation. Journal of the Academy of Marketing Science, 48(1), 114-131.

      Hagiu, A., & Wright, J. (2021). Don't Let Platforms Commoditize Your Business. Harvard Business Review, 99(3), 108-114. (倉田幸信訳「」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』October 2021, 14-25.)

      Adner, R. (2021). Winning the right game: How to disrupt, defend, and deliver in a changing world. MIT Press. (中川 功一監訳、蓑輪美帆訳『エコシステム・ディスラプション―業界なき時代の競争戦略』東洋経済新報社, 2022年)
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