米田恵美子琉 市場創造の「すすめ方」 #04
P&Gも実践する「Connecting The Dots」イノベーションを起こすための“新しい”つながり方【米田恵美子】
Connecting The Dotsとは何か
私は幸いなことに、市場でイノベーションを起こしてヒット商品を生み出すという成功体験を何度かさせてもらいました。それらを実現できた背景には、それまでの既成概念を覆すような新たな発見があったと思います。私が長年勤めたP&Gでは、イノベーションにつながる発見は、意味のあるデータや情報(点)をつなげて新しい概念を発見すること、つまり「Connect The Dots」が重要であると教わりました。
「Connecting Dots」という言葉を聞くと、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズによるスタンフォード大学の卒業式辞を思い起こされる方が多いかもしれません。私もそのスピーチが大好きで、何度も聞き返しては感動しています。
先を見通して点をつなぐことはできない。
振り返ってつなぐことしかできない。
だから将来何らかの形で点がつながると信じることだ。
何かを信じ続けることだ。
直感、運命、人生、カルマ、その他何でも。
この手法が私を裏切ったことは一度もなく、
そして私の人生に大きな違いをもたらした。
(Steve Jobs 2005年スタンフォード大学卒業式辞から抜粋)
振り返ってつなぐことしかできない。
だから将来何らかの形で点がつながると信じることだ。
何かを信じ続けることだ。
直感、運命、人生、カルマ、その他何でも。
この手法が私を裏切ったことは一度もなく、
そして私の人生に大きな違いをもたらした。
(Steve Jobs 2005年スタンフォード大学卒業式辞から抜粋)
彼がスピーチの中で使っている「Connecting Dots」は、過去を振り返ってつなぐことによって見えてくる、それぞれの点(人生における出来事)の意味の深さです。
スタンフォード大学を中退した彼が、今そのスタンフォード大学の卒業式辞を述べる立場にいるという因果。中退したため聴講生として受けたカリグラフィーの授業のおかげで、マックにスタイリッシュな要素を取り入れることができたという経験。アップルを創業したにもかかわらず、一度追い出され、そしてまた呼び戻されて経営再建に関わっているという因縁。人生における挫折や苦しみとも思われるすべての出来事に意味があり、今につながるための必然であった。だからこそ、大きな困難や挫折にぶち当たったとしても、その経験は必ず将来の何かにつながると信じて生きることが大切であると語るのです。
では、イノベーションにつながる、新たな発見のための「Connecting The Dots」とは、どのような意味でしょうか。
それは、点と点の“新たな”つながりを見つけることだと考えます。Dots(点)は、ひとつの事象やデータを指します。Connecting(つなげる)とは、それらをつなぎ合わせて新しい概念を発見することを指します。つなぎ合わせる点(事象やデータ)は、必ずしも新しく発見した点でなくても、以前からある既存の点であってもかまいません。何よりも重要なことは、課題解決の糸口となるような新たな組み合わせで「つながり=ストーリー=新説」を見つけることです。
P&Gが開発した柔軟剤「レノア」が市場を2倍に拡大できた背景にも、それまで気づかれていなかった「新しい概念」を見つけたことがありました。レノアの発売前は、柔軟剤市場は昨年対比90%の勢いで縮小しており、競合各社は「柔らかさ」と「安さ」を競い合い、市場縮小に拍車をかけていました。ユーザーは柔軟剤に対するロイヤリティーを失い、「安ければなんでもいい」という風潮から「安くなければ買わない」「柔軟剤なんて別に必要ない」という存在へと格が下がりつつありました。
そんな中でP&Gは、本来ならば「洗剤」が担うべき効能と考えられていた「消臭」を柔軟剤に与えることで、消費者に受け入れられ、喜んでもらえることを発見したのです。
この「新しい概念」に至るまでには、膨大な量的・質的データを収集し、それらの情報の中から特に重要なデータ(点)のみを抽出して、それらをつなげることで「柔軟剤の効果を洗濯物を柔らかくするだけに絞らず、消臭効果も柔軟剤にもたせよう」という新しい概念をつくり出しました。
では、どうすれば、つなげるべき重要な点と無視すべき重要でない点を判別できるのでしょうか。