成長企業から考える「マーケターの定義」 #02

「戦略と戦術」のラダー構造を上下に行き来できる人材こそ、マーケターである

前回の記事:
博報堂という会社の人間として生きるのか?マーケターという職業人として生きるのか?【Indeed 水島剛】

戦略を考えることは、マーケティングについて考えること?

 今回は、「戦略」に関連したテーマについて書こうと思います。僕は新卒で博報堂に入社した時に、会社から「ストラテジックプランナー」という肩書きをもらい、その後10年間その職種で働いていました。

 その間、戦略という言葉を企画書、もしくは会議やプレゼンテーションの中で何百、何千回と繰り返し使用しました。しかし戦略という言葉の定義は今なお明確に固まらず、僕の中でこの言葉の概念に関する思考は日々更新され、新しい発見があります。

 「戦略とは何か?」について考えることは、「マーケティングとは何か?」について考えることと近く、このテーマに関する思考を共有することで、自身のマーケティングに関する考え方や向き合い方をお伝えできるのではないかと思っています。

 当然、戦略の辞書的な定義や網羅的な戦略論は書けないですし、書くつもりもありません。そして、「戦略」というテーマは非常に大きな題材で、この記事の中で書き切れるものではないため、テーマを絞り込もうと思っています。ちなみに蛇足ですが、大きな課題を与件に合わせて解決できるレベルに絞り込んでから解決策をつくる。これは、戦略設計の際によく使う便利なアプローチです。

 いずれにしろ、思考の浅さを見透かされそうで怖いテーマですが、頑張って書いてみようと思います。マーケティングにおいて、なぜ戦略が重要なのか、ということに関しての僕なりのひとつの回答をお伝えします。


 

上位レイヤーの戦術が、下位レイヤーの戦略になる

 なぜ戦略がマーケティングにおいて重要なのか。それは一言で言うと、戦略がマーケティングを幅広い課題に対する有効な解決のアプローチとして機能させる「必要条件」だからです。マーケティングの概念は非常に広く、経営の上位概念でもあると言われています。それは、「顧客ニーズの創造」というマーケティング発想が先にあり、初めてビジネスが創造されるからです。

 一方、施策としての広告コミュニケーションも当然、効果的な結果をもたらすためにマーケティング発想を使います。つまりマーケティング発想は、経営戦略からユーザー体験設計まで、幅広い領域でのアプローチに使うことができる便利な能力です。

 そして、このマーケティング発想を因数分解すると、戦略発想と戦術発想で「MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive:お互いに重複せず、全体に漏れがない)」になると思います。つまりマーケティングは、シンプルに表現すると戦略と戦術でできていると言えます。そして、戦略と戦術が「ラダー(はしご)構造」になっているからこそ、マーケティングは幅広い領域へのアプローチが可能なのです。

 それは、どういうことかと言うと、例えば経営戦略があり、経営戦略を実行に移す戦術として各事業の戦略がある。そして、各事業にもその戦略を実行に移すための戦術がある。そうやって、経営戦略、事業戦略(経営戦術)、マーケティング戦略(事業戦術)、コミュニケーション戦略(マーケティング戦術)、クリエイティブ戦略(マーケティング戦術)、具体的な施策というように、上位レイヤーの戦術が下位レイヤーの戦略になっているような構造が何層も続いているということです。そして、企業におけるマーケティングの部署が担う役割は、上記のラダー構造の間に位置付けられています。

 マーケティングの部署でキャリアを開始した後、ラダーを上がっていけば、より事業や経営の領域にマーケティング発想を使ったアプローチをしていくことになります。ラダーを下っていけば、マーケティング課題を解決するために、戦略と整合性の取れたクリエイティブを制作することになります。

 クリエーターが単に広告制作だけをする人なのか。もしくはマーケティング課題を解決するソリューションを提供するマーケターなのか。リサーチャーが、単に調査分析をする人なのか。もしくはマーケティング課題を抽出して解決策をつくる領域にまで関与するマーケターなのか。

 戦術は戦略を実行に移す手段であり、戦略を意識して戦術をつくることがラダーを上がることにつながる。そして、戦略を実行する手段の実行に関与していくことでラダーを下だることにつながるのです。

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