マーケティングで社会課題を解決できるか #02
プライベートな行為を慣れない環境で。医療機関での精液検査の「負」と向き合う
きっかけは身近な「負」の発見
私がリクルートに入社してから3カ月程経った頃、上司と1対1で飲みに行く機会がありました。日頃の業務の様子やお互いのプライベートの話などをする中で、上司が妊活中にクリニックで精液検査を受けたということを話してくれたのです。医療機関の精液検査では、まず「採精室」という専用の個室で精液を採取します。採精室には本やDVDが用意されており、極めてプライベートな行為を慣れない環境で行います。
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以前からスマートフォンで精子を観察できる、顕微鏡のような商品があることを知っていたため、スマートフォンで撮影した精子の動画を自動で解析できれば、簡易的な測定ツールを提供できると考えました。
まずはできる範囲から動いてみる
上司との会話の翌日、早速ラフスケッチに取り掛かりました。精子を観察するためのレンズには、どのような機構が必要か。実験の経験や医学の知識がない一般の人に使いやすいキットとはどのようなものか。スマートフォンで動画解析を行うために、スマートフォン本体と顕微鏡レンズの構成はどのようにすべきかなど、検討すべき項目は多岐に渡りました。
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ゼロからのハードウェア開発
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「はじめましてリクルートです。スマートフォンで動いている精子を撮影するためのレンズを作りたいのですが」
いくつものレンズメーカーに、問い合わせをしました。「リクルートって、あのリクルートですか?」とだけ確認されて、電話を切られることも少なくありませんでした。
ようやく協力してくれるレンズメーカーが見つかった後もトライ&エラーの連続です。メーカー側もスマートフォンで精子を撮影するためのレンズはつくったことがありません。しかも、ただ精子が観察できれば良いだけではなく、スマートフォンで動画を解析できるだけの解像度が必要です。
こちらから伝えた要件を満たしたプロトタイプを製造してもらった後、すぐに使用試験を行い、うまくいかない点をフィードバックします。こちらのフィードバックを待ってもらっている間は開発が止まっているので、納品され次第、試験を行わないといけません。試験では精子をきちんと撮影できるかを確認しないといけないため、文字通り「体を張る」必要がありました。