TOP PLAYER INTERVIEW #78

売上・利益ともに過去最高のカンロ、それを支える2つの成長戦略とは?【マーケティング本部長 内山妙子氏】

前回の記事:
サブスクにAI、苦情の次世代化…50年を迎えた広告審査機関JAROが向き合う広告の信頼性への課題
 キャンディ(飴やグミなど)市場が伸長している中、カンロでは「カンロ飴」や「金のミルク」、「ピュレグミ」などを販売し、売上・利益ともに過去最高を更新している。2024年度上期の営業利益は前年同期比32.2%増となり、当初の予想を上回る成長を見せている。

 今回は、同社 常務執行役員 マーケティング本部長の内山妙子氏にインタビューを実施。キャンディ市場を牽引し、シェアを拡大するためのマーケティング戦略とは何か。前編では、飴をなめる原体験を持たないZ世代の消費者への取り組みに加えて、ECや直営店を通じた「拡張」、顧客と深くつながる「深化」という2つの戦略を詳しく聞いた。
 

飴のパーセプションチェンジを起こす


―― まず、内⼭さんのこれまでのご経歴と現在の管掌範囲を簡単に教えてください。

 新卒でデザイナーとしてカンロに入社し、その後、新設2年目のマーケティング部に異動しました。最初に担当したのは、カンロの看板商品である「カンロ飴」のデータ分析や広告宣伝でした。当時、売上が落ちており、2005年の発売50周年を機にV字回復を目指すプロジェクトにも従事しました。

 その後は、キャンディの地位向上を目指し、創業100周年を迎えた2012 年にはJR東京駅構内に直営店のキャンディショップ「ヒトツブカンロ」を立ち上げました。また、40年ぶりとなる新しいCI(コーポレート・アイデンティティ)導入を推進し、2018年に執行役員 兼 コーポレートコミュニケーション本部長に就任。コロナ禍にはデジタルコマース事業本部を新設し、オンラインショップ機能も有した複合型オウンドメディア「Kanro POCKeT(カンロポケット)」をオープン。現在は、マーケティング本部長を務めています。
 
カンロ 常務執行役員 マーケティング本部長
内山 妙子 氏

―― キャンディ(飴やグミなど)市場において飴全体で見るとダウントレンドですが、貴社としてどのように捉えていますか。

 現在、グミはブームになっており、今後も売上が伸びると予想されていますが、飴は長期的に低落していく傾向が見えています。昔は親が子どもにおやつとして飴を与えていましたが、現代は飴がグミに置き換わり、他にもさまざまなお菓子が生まれています。その結果、「飴をなめる」といった原体験が薄れつつあります。飴を次世代へと繋げるための仕掛けをつくることが大切だと考えています。

 当社はブランドが多く基本的にオールターゲットです。ただ、現代においてどのように影響が伝播していくのかを考えると、母親を着火点としつつも、Z世代やα世代向けの新商品開発は外せないと思っています。そのため、当社ではZ世代向けの商品開発やマーケティングも強化してきました。

 以前、インフルエンサーの高校生3人に「キャンディディレクター」として、Z世代向けの商品開発に参加してもらったことがあります。そのときにZ世代は、キラキラしているように見える人であっても、心のつながりや愛情、安心を欲しているというインサイトにたどり着きました。そして、このインサイトを基にピュアな想いや爽やかな青色をモチーフにして、エモーショナルなシーンを切り取った「透明なハートで生きたい」という商品名でハート型の飴を販売しました。
  
飴の価値を再認識する、新たなキャンデ「透明なハートで生きたい」(※現在、生産終了)

 私たちはこの商品で飴に対する価値観を変えることを目指し、実際に売上を伸ばすことができました。しかし、課題として多くのお客さまが1度だけの購入で終わってしまう傾向があり、瞬間的な消費だけで終わらせないためには、別の工夫が必要だと見えてきました。この反省を生かし、飴を継続的に購入いただける習慣や文化をつくるという視点で商品開発やマーケティング施策を考えています。

 また、飴に対する社会的なイメージの刷新も今後の課題です。たとえば、水筒は子どもの頃の遠足で使われていましたが、大人になるとオフィスでは水筒ではなくタンブラーを使うようになりますよね。水筒もタンブラーも機能は同じですが、名前を言い換えるだけで、消費者のイメージが転換されて使われるようになります。このようなパーセプションチェンジを、飴でも起こしたいと考えています。

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