ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #20

ネットリサーチの生みの親 杉本哲哉氏は、どのように激戦市場を勝ち抜いてきたのか

前回の記事:
社員のインセンティブ報酬は、生み出した利益で決定。明確な評価こそ社員のやる気に【ベクトル 西江肇司】
 エトヴォス 取締役COOの田岡敬氏が第一線で活躍するビジネスパーソンから、その人がキャリアを切り開いてきた背景やイノベーションを生み出してきた思考法を探っていく連載。第11回は、グライダーアソシエイツの代表取締役社長である杉本哲哉氏が登場。マクロミルを創業して日本にネットリサーチ市場を創出し、現在はキュレーションアプリantenna* を提供するグライダーアソシエイツを率いている。これまでのビジネスについて聞きながら、杉本氏の思考法を探った。
※対談時の田岡敬氏は、ニトリホールディングス 上席執行役員。1月21日よりエトヴォス 取締役COO。
 

マクロミル社長退任、そして復帰まで

田岡 杉本さんは、マクロミルに続き、antenna* を展開するグライダーアソシエイツを起業されたシリアルアントレプレナーだと思います。ご自身では、どのように思っていますか。

杉本 いやいや、シリアルアントレプレナーというつもりは、全くないですよ。マクロミルとグライダーアソシエイツの2社だけですし。
杉本 哲哉 氏
株式会社グライダーアソシエイツ 代表取締役社長
1967年神奈川県生まれ。92年早稲田大学社会科学部卒業後、リクルートへ入社。就職情報誌営業部、財務部、新規事業開発室、デジタルメディア事業部門などを経て、2000年にマクロミルを設立、代表取締役社長に就任。05年代表取締役会長、06年取締役ファウンダーの後、09年代表取締役会長兼社長に復帰。12年にキュレーションアプリ「antenna*(アンテナ)」を手掛けるグライダーアソシエイツを設立し、代表取締役社長を務める。同アプリは現在、ユーザ数約650万人、提携メディア数約300、クライアント数約1,500。

田岡 マクロミルの社長を2015年に退任された後は、グライダーアソシエイツに専念されていますよね。2006年にも一度マクロミルの社長を退任し、2009年に復帰されていますが、それはどのような経緯だったのでしょうか。
田岡 敬 氏
エトヴォス 取締役 COO(最高執行責任者)
リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。

杉本 そうですね。2006年に社長を退任したのは、2004年にマザーズ、2005年に東証一部に上場し、この会社は私がいなくても、このまま成長していけるだろうと思ったからです。当時の私は、いわゆる事業、とりわけインターネットビジネスはもう十分…という心境で、「もの書きにでもなろうかな。それには少しリハビリが必要だな」くらいに自身を考えていました。

田岡 では、なぜもう一度マクロミルに。

杉本 それは、リーマンショックですね。世界的な大恐慌でしたので、マクロミルの経営陣の資質という次元の話ではありませんでした。しかし、2006年に引き渡したときに400億円だったマクロミルの時価総額が108億円まで下がってしまったんです。

 当時、私は取締役としては残っていたので、毎月の取締役会には出席していました。その場で、どのように元の企業価値にまで回復させるのか話し合うのですが、誰も要領を得た発言がないわけです。その状況に正直、不安を覚えました。

田岡 でも、自分で後任を指名した以上、その人を退任させるのも大変なことですよね。

杉本 その通りです。会社を経営するには人事権と予算権の2つが重要ですが、当時は一介の取締役になっていた自分には権限がありません。私が代表取締役社長だったときに権限が社長に集まるよう規定をつくっていて、そのまま渡していましたからね(笑)。

 自分で会社を動かすには、社長に戻る必要があったため、当時の取締役や監査役に「私ならこうする」と説得して、調整に調整を重ねて戻ることになりました。しかし、心の底では、すごく複雑でしたね。自分では、マクロミルのビジネスをやり切ったと思って、次の経営体制にパスしていたので。

田岡 気持ちとしては、すっきりされていたんですね。

杉本 そうなんです。リクルートを辞めてマクロミルを立ち上げるときには、何の迷いもありませんでしたが、もう一度社長に戻るときは比べものにならないくらい悩みました。自分がそれまで積み上げてきたものに対して、逆行するような気持ちだったのです。実際、戻った直後に体調を崩して入院しましたし(笑)。

 しかし、会社は自分の子どものような存在。自ら辞書を引いて社名を考えて、商標登録をしてドメインも取っています。社員もたくさん採用してきました。そうして積み重ねてきたものの価値が落ちていくのは、どんな理由であれ看過できません。その現状を打破できる人材がいないのであれば自分でやって、それでもだめなら諦めるしかないと思い、自分を鼓舞しました。

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