ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #22
レコメンドエンジンのコードも自ら書く、時価総額1000億円超え「一休」社長の成長戦略
パーソナライゼーションで、自社の優位性を確立
田岡 なるほど。その次に取り組まれたのは、どのようなことですか。榊 パーソナライゼーションですね。ヘビーユーザーの利用履歴が溜まっていたため、それらを活用すれば他社は追随しにくくなると考えました。具体的には、検索結果やレコメンドのパーソナライズ化です。現在は、例えば、ある施設が特別な商品を提供したとして、その在庫数を売り切るためには何人のお客さまにレコメンドすればいいのか、という計算も完璧にできるようになりました。
田岡 それはすごいですね。レコメンドエンジンは、ご自身でつくられたと聞きましたが、本当ですか。
榊 当時は、そうですね。僕がコードを書きました。
田岡 すごいと思います。
榊 たまたまですよ。現在は、私だけではなく会社全体でさらにレベルの高いレコメンドエンジンをつくっています。
田岡 外部のレコメンドエンジンを使わずに、なぜ自社で開発しようと思われたのですか。
榊 比較しましたが、汎用性の高い外部レコメンドエンジンはカスタマイゼーションに手間がかかり、自社開発の評価が高かったんです。
例えば、宿は出張でのビジネス利用も多くありますが、出張で利用した宿をレコメンドされたとしても、次にたまたまそのタイミングでまたそこに出張がない限り意味がありません。平日1名の予約は出張が多いため、レコメンドのロジックから外す必要があるのです。また、ビジネス以外の利用でも、沖縄ならレコメンドされるとまた行こうかと思いますが、金沢は行かない、などエリアの特性を鑑みる必要があります。
さらに、予約済みのお客さまに、その宿に宿泊する前に、類似する周辺の宿をレコメンドしてしまうと、げんなりさせてしまいます。そのため予約が入った瞬間に、その周辺の宿をレコメンド対象から外す必要があります。それらをすべて実現するためには、自社で開発した方のレベルが高くなると分かったんです。
田岡 レコメンドエンジンを導入したインパクトは、ありましたか。
榊 とてもありました。特にターゲットであるヘビーユーザーからの評判が良かったですね。Webサイトに1日20万人が訪問しますが、ヘビーユーザーはそのうち数百人です。人数で見ると、わずかにしか上がりませんでしたが、使う金額が大幅に上がったのです。
田岡 UI・UX改善で負の部分をなくして、お客さまを定着させてから、レコメンドエンジンで攻めたのですね。そのあとにロイヤリティプログラムですか。
榊 そうです。ロイヤリティプログラムを導入したのは、私が加わってから3年目でした。負の解消やUI・UXを改善したりだけでは、いつか伸びが止まります。ロイヤリティプログラムのカードは、そのタイミングで切った感じですね。
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