ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #23

週次のKPIレポートを自らSQLを叩き作成。高級宿予約Webサイト「一休」再成長を支えた社長業

前回の記事:
レコメンドエンジンのコードも自ら書く、時価総額1000億円超え「一休」社長の成長戦略

毎週データを見える化し、チームにバトンを渡す

田岡 これまで一休を改革してきた中で、榊さんならではの考え方や経験が生きていると思うことはありますか。

おそらく僕が他の方と違う点があるとすれば、事実の探究心が強いということでしょうか。インターネットビジネスは、先週の業績が良かった理由は何か、どういったお客さまがどのような買い方をしているのか、など多くのことが分かります。僕はそれらへの興味が強く、数字を“見える化”することに注力しています。
一休 代表取締役社長 榊淳氏 1972年、熊本県生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研修科終了後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。米スタンフォード大学大学院にてサイエンティフィック・コンピューティング修士課程修了。ボストン コンサルティング グループに入社し、約6年間コンサルタントとして活躍。2009年よりアリックスパートナーズ。13年一休入社。PL責任者として宿泊事業の再構築を担い、14年副社長COO就任。16年2月に創業社長・森正文氏の退任に伴い社長就任。

田岡 お話を聞いていると、榊さんは社長でありながら、ご自身でたくさんのアイデアを出されたり、自らも手を動かされたりしていることが多いように感じます。

そうではないと思いますよ。戦略の立案は行いますが、施策は基本的には各チームに任せています。私が行なっていることは、毎週データベースにアクセスして50~60枚程度のレポートをパワーポイントにまとめて、週1回社員に共有することです。そのため、私は金曜日と土曜日を休みにし、日曜日は出勤してレポートを作成しています。そして、それを役員に共有して、月曜日の会議に臨んでいます。

 例えば、スマートフォンのホテルページにランディングするお客さまのコンバージョン率が下がって全体の収益に悪影響を及ぼしているとすれば、それが問題だということをチームに伝えます。そして、それをどう改善するかの施策までは僕は関与しません。チームのメンバーのクリエイティビティが発揮されることが大事だと思っています。

田岡 SQLをご自身で書かれて、直接データを引っ張ってこられるわけですか。恐れ入りました。

すごく、おもしろいですよ。僕は、それに一番ワクワクしています。基本的にほとんどのチャートがグリーンサインに見えるわけですが、ときどき引っかかる点があるのです。そこをしっかり見つけて役員会で伝えます。ただし、その打ち手は各チームに任せるのです。

田岡 では、榊さんがレポートすることで、将来大きなインパクトを生むかもしれない小さな変化も見逃さずに対応できるようになっているということなのですね。

できているかは分かりませんが、それが狙いです。インターネットの事業は大きなパンチをズドンと当てるのではなく、猫パンチを何回も当てることが重要だと考えています。そのために、それぞれのチームがそれぞれの役割を最適に全うしてもらうことが一番大事です。

田岡 部分最適になると、お客さまからすると、体験がちぐはぐになってしまうということはないのですか。

確かに、それもあるかもしれませんね。ただし、一方で社員のクリエイティブの総和が大きいため、それを越えるリターンがあるとも感じています。それから社員の多くがユーザー体験を良くしたいと思っているため、そういったポジティブなマインドで発揮されるクリエイティビティも強いと思うんです。

田岡 掲げていらっしゃるユーザーファーストは、もともと社内で大事にされてきた考え方なのですか。

榊 いえ、そうではありませんでした。実はマーケティングやエンジニアなど顧客に向けた仕事をしているチームよりも、施設側とやりとりをしている法人営業チームの方が性格的にもハキハキしている人が多く、発言力が強いんです。普通に議論すると、法人営業側の主張が勝ってしまうため、僕の方から「ユーザーが一番大事だ」ということは度々言うようにしていますね。

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