ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #24

あいみょんプロデューサー 鈴木竜馬が語るヒットの法則「音楽業界のエッジからセンターへ」

音楽フェスから紅白まで、エッジとセンターを両立させる


田岡  さまざまなミュージシャンを手がけてこられましたが、売れそうだという判断は、どうやってされるのですか。

鈴木  音楽性やビジュアルもありますが、最終的には「自分の勘」しかないと思います。そして、勘の基に何があるかと言えば、嗜好性です。

 ミリオンヒットが簡単に狙えなくなった時代、個人的な戦略としては「10万枚×10アーティスト」、または「20万枚×5アーティスト」で届けられたらいいと考えています。その規模ならば、自分の好きな音楽で市場として十分に成り立つので、やはり自分の勘が頼りになるんです(笑)。

 僕らワーナーミュージックは、世界では3大メジャーと言われていますが、日本国内には200人弱しかスタッフがいません。一方で日本には、ソニーミュージックやエイベックス、ユニバーサル、ビクター、キングレコードなど、数多くの大手企業がせめぎあっています。僕たちの規模であれば、やはり丁寧にセグメントして、リソースを集中させてタレントを発掘しデビューさせて、デビュー後は人気を最大化させる必要があります。

 そういう狙いもあって、僕らのアーティストは、夏と冬に開催されるロックフェスなどの大きなイベントに加えて、ときにレコード大賞や紅白歌合戦といった地上波のショーレースなど、マスであるテレビメディアにも登場できるようにプロデュースしています。



田岡  あいみょんがどのようにブレイクしたのかを分析した記事も読んだのですが、メディアに露出しながら、ファン層を上から下の世代に広げていったのですね。このようにエッジの効いたタレントによってポピュラリティ(大衆性)を取りにいこうと考えたきっかけになった出来事があったのですか。

鈴木  デビューから関わっていたRIP SLYMEのアルバムがミリオンヒット(100万枚)を記録した経験は大きかったですね。あの時代のHIP HOPアーティストでのミリオンはすごいことでしたし、たしか同じ日に発売したSMAPのアルバムにダブルスコアで勝ったんです。

 当時、SMAPの国民認知率は90%を超えていましたが、RIP SLYMEは10%程度でヒップホップもまだまだマイナーな存在。それでも100万枚売ることができました。カウンターカルチャーがやり方によっては大きな潮流になる、ということを体現できた瞬間でした。

 ミリオンでスーパーヒットと言われるのは、そもそも音楽が生活必需品ではなく、あくまで趣味嗜好の世界だから。食品などの日用品では100万個売れてもスーパーヒットではありません。ニッチでも売れる、ビジネスが成り立つと気づいた瞬間でした。

田岡  竜馬さんが売れると判断するアーティストには、性格の共通点もあるのでしょうか。先ほど着せ替え人形にならないというお話もありましたが。

鈴木  順風満帆の人生を歩んできたというよりも、クラスの端っこを経験しているような人が多いと思います。きゃりーも学校帰りにトイレで着替えて、原宿に行って自分を解放していましたし、みんなどこか周囲とは、迎合しない部分を持っている人が多いですね(笑)。
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