ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #25

最高益に沸く音楽業界。サブスク浸透でCDの自社流通から撤退、デジタル人材に投資【ワーナーミュージック 鈴木竜馬】

前回の記事:
あいみょんプロデューサー 鈴木竜馬が語るヒットの法則「音楽業界のエッジからセンターへ」
 RIP SLYME、BONNIE PINK、きゃりーぱみゅぱみゅ、ゲスの極み乙女、高橋優、WANIMAなどのアーティストを世に送り出し、最近は若い世代から絶大な支持を集め、紅白歌合戦にも出場したあいみょんのプロデュースも手掛けているワーナーミュージック・ジャパン執行役員の鈴木竜馬氏。前編に続き、サブスクリプション型へと移行する音楽ビジネスの最前線について、鈴木氏の20年来の知人である田岡氏が話を聞いた。
 

サブスクリプション型音楽配信サービスへの期待


田岡 音楽レーベルは従来、CDやDVDを国内に流通させたり、ライブを開催したり、プロモーションを手がけたり、といった役割を果たしてきたかと思います。音楽のデジタル配信が普及し、サブスクリプション型にビジネスモデルが移行する中で、レーベルの役割も変化しているのではないでしょうか。

鈴木 その通りです。これまでの「CD文化」におけるメジャーレーベルの定義は、どんなに少なくても5大都市(東京、大阪、札幌、名古屋、福岡)にプロモーションチームを持っていること。そして、日本の北から南までCDを届けられるディストリビューション(流通)機能を持っていることでした。

 それがデジタル配信にシフトする中で、これまでと同じ印税の配分でいいのかなど、ビジネスのスキーム自体が問われています。
鈴木竜馬
ワーナーミュージック・ジャパン 執行役員/CENTRO 代表取締役
1969年東京生まれ。東海大学文学部卒業。1993年にソニークリエイティブプロダクツに入社、96年に退社後、世界各国を旅する。99年にワーナーミュージック・ジャパンに入社。2010年にunBORDEのレーベルヘッド、14年に執行役員に。17年10月に設立された360度ビジネスの新会社CENTROの代表取締役に(ワーナーミュージック・ジャパン執行役員兼任)。

 ちょうど、先日発表がありましたが、日本のデジタル音楽市場でストリーミングサービスの売上が初めてダウンロードを上回りました。今後は、さらにサブスクリプション型の音楽配信にシフトしていきますが、その1回再生で我われレーベルに入ってくる金額は、本当にわずかです。

 それゆえ、ビジネスモデルとしては、大きな利益を短期間で一気に目指すというよりも、長い期間をかけて、どれだけ聞いてもらえるかを目指す方向に変わってきています。

田岡 レーベルの役割は、流通よりも音楽のプロデュースとプロモーションに寄っていくということですね。例えば、デジタル上のコミュニケーションが重要になるなど、プロモーション手法も変化しているのですか。
田岡敬氏
エトヴォス 取締役 COO(最高執行責任者)
リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。

鈴木 それは、難しいところですね。デジタル上のコミュニケーションが大事なのは間違いありませんが、あいみょんの「今夜このまま」という曲が日本テレビのドラマの主題歌に採用されて話題になったように、届け方によっては、相変わらずメディアとのタイアップも大きな可能性を秘めています。

 ただし、それも単にタイアップを付けばいいという話ではなく、どのように使われるかが重要ですが。

田岡 サブスクリプションが主流になれば、1曲気に入ってもらえれば、同じアーティストの過去の楽曲も次々と再生されるようになりますよね。

鈴木 はい、それがサブスクリプションビジネスの大きなメリットです。あいみょんもヒット曲が出たことで、過去の楽曲も再生されるようになって、今年の初めには、Apple Musicのランキングで1位から5位までを独占することができました。

 「音楽業界は不況でしょ」と言われることがありますが、とんでもありません。一昨年は、世界3大メジャーレーベルと呼ばれるユニバーサルミュージック、ソニーミュージックエンタテインメント、ワーナーミュージックが過去最高益を更新しました。世界的にも4年連続で成長を遂げています。いま音楽業界は、ものすごく好景気ですよ。

田岡 サブスクリプションの時代になれば、流行る音楽も変わると思いますか。

鈴木 やはり旧譜が活性化される面は大きいですね。僕も移動中はリラックスしたいと思って、懐かしい曲を聞くことが多いです。そういう意味では、あいみょんが新譜なのに、音楽配信サービスで聞かれているのは、本当にすごいことなんです。

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