マーケターキャリア協会 特別座談会 #02

営業パーソンをマーケターと呼ぶことはできるのか【鈴木健、富永朋信、中村全信、中野博文 座談会】

前回の記事:
マーケターが幸せなキャリアを歩むために必要なことは何か?【鈴木健、富永朋信、中村全信、中野博文 座談会】
 マーケターのキャリア構築の支援を目的とした「マーケターキャリア協会(MCA)」が3月1日、設立された。マーケターのキャリア構築における課題と解決策とは何か。同協会の理事を務めるイトーヨーカ堂 執行役員の富永朋信氏、ニューバランス ジャパン DTC &マーケティングディレクターの鈴木健氏と、同協会の発起人であり、事務局長を務める中村全信氏から話を聞く座談会の後編をお届けする(聞き手:ナノベーション 中野博文)。
 

マーケターが舐められる背景には何があった?


中野  先ほど(前編はこちら)、マーケティングという仕事が舐められたり、簡単な仕事だと思われたりしているという話がありました。そう思われてしまう背景には、何があるのでしょうか。やはり、日本では長い間、「マーケティング=広告宣伝」だと思われてきたことが理由でしょうか。

富永  そうですね。宣伝部門に限って言えば、かつては出社時間が遅かったり、ドレスコードがあるのにTシャツで来たりと、チャラチャラしたイメージもありましたよね(笑)。いろいろなボタンの掛け違いがあったのだと思います。
富永 朋信 氏
イトーヨーカ堂
執行役員 営業本部副本部長兼販売促進室長

1992年大学卒業後、コダック社に入社。以来、日本コカ・コーラ、西友、ドミノ・ピザジャパンなどマーケティング関連職務を7社で経験。うち、西友、ドミノピザでなど3社ではCMOを拝命。2018年9月より現職。座右の銘はいろいろあるが、今のお気に入りは「過ぎたハンサム休むに似たり」。

中村  あとは、企業の中で実質的に売上を立てているのは、多くの場合、営業部門だという理由もあると思います。私自身も営業の経験がありますし、実際に会社を支えているという自負もありましたので、それ自体を否定するつもりはありません。

 ただし、売上が上がった背景として、マーケティング部門のサポートがあったケースもたくさんあるはずです。例えば、マーケットの消費者の状況を見据えて、さらに競合企業の動きを分析し、どのような戦略が自社のビジネスにとって価値があるのか、具体的な施策を準備したりしていますよね。そうした貢献の重要性も発信していく必要を感じています。
中村 全信 氏
グーグル
YouTube プロダクトマーケティングマネージャー

2002年に青山学院大学卒業後、宣伝会議入社。2011年Google入社以降、YouTubeの広告プロダクト担当として、TrueView動画広告、ブランド効果測定、バンパー広告などを担当。現在はマーケティング部門にて、企業のYouTube活用を支援している。
 

営業パーソンもマーケターと呼ぶことはできるのか?


中野  MCA設立のニュースがSNS上で拡散されていく様子を見ていると、キャリアに関心があるマーケターが多いなと感じました。
中野 博文 氏
ナノベーション 
代表取締役社長 CEO

1978年 長野県松本市生まれ。2002年に獨協大学卒業後、宣伝会議入社。2012年 開学した事業構想大学院大学で主任研究員。2013年 ディーエムジー・イベンツ・ジャパンへ移籍。セールス統括。2015年よりアドテック事業、アイメディア事業の責任者。2016年8月ナノベーション設立。

中村  そうですね、マーケティングに関わる人それぞれの中にある悩みやニーズを揺さぶることができたのではないかと受け止めています。ただし、何事においても賛否両論があるはずで、皆さんのフィードバックをしっかりと受け止めて、活動に反映していきたいと思っています。

富永  設立発表会で話したことですが、私の父親は山一證券に勤めていました。「富永さんのお父さんは、どういう人だったの?」と聞かれると、「山一証券にいたんですよ」と言うのですが、それだけでは、父親のことをきちんと伝えられていないような気がして、嫌なんですよ。

 私は、もし自分が死んだら、娘からは「うちのパパは、マーケターだったんだよ」と言ってほしいんです。でも今は、言わないと思います。それでは、マーケターの価値が可視化できたとは、言えないでしょう。

中野  今、娘さんは富永さんのことを何だと思っているんですか。

富永  イトーヨーカ堂で働いている人だと思っている、と思う(笑)。でも、マーケターだと思ってくれていたら、うれしいですけど。

中野  マーケターという職業に何か資格があるわけではないですよね。もし私が「私もマーケターです」と言ったら、みんなから反対されそう(笑)。

富永  いや、中野さんもマーケターだと思うよ。

中野  では、何ができるとマーケターだと言えるのでしょうか。

富永  良いマーケターという定義になると、たくさんの条件が出てくるのですが、マーケターであるための必要条件であると私が考えることは、仮説構築ができて、それに基づいたアクションがきちんとできることです。

中野  営業もマーケターというのは、成立しますか。

富永  営業は自分で青写真を描いてビジネスをつくる仕事ですからね。マーケターと言って良いと思います。日本では、営業というと、ドサ回りなど、すごく凝り固まったイメージを持たれていますよね。ただし、クライアントに向き合って、その会社に何が必要なのだろうかと考えて提案をする、これは価値創造ですし、マーケティングと言えると思います。  

鈴木  私も広告会社で営業をしているときは、自分のことをマーケターだと思っていましたよ。
鈴木 健 氏
ニューバランス ジャパン 
DTC&マーケティング ディレクター

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し、現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。2017年より直営店およびEコマース事業も統括。

中野  全国を飛び回っていた時代ですよね。

鈴木  そうそう。だから今、中野さんが言ったことも、マーケターのキャリアを考えていく上での障害の一部だと思います。私は営業だから、マーケターではない、と考えるのではなく、現状をもっとよくするための思考をしていくこともマーケティングだと定義できるかもしれません。そういう考え方をした方がマーケティングの価値がもっと上がるのではないかと思います。

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