ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #28

起業資金7億円はどう貯めた? 紆余曲折で生まれた高級バッグシェア「ラクサス」

前回の記事:
急成長の高級バッグ シェア&サブスクサービス「ラクサス」児玉社長が語る、ビジネスが成立する法則
 エルメスやルイ・ヴィトンなどの高級ブランドバッグが月額6800円で借り放題になるシェアリング&サブスクリプションサービス「Laxus(ラクサス)」。その平均継続率は91.6%(前月有料会員の当月継続率の直近30カ月)、会員数(無料含む)は30万人にのぼる。ラクサスのビジネスは、どのように発想されたのか。サービスのローンチまでの経緯や、その裏側にある児玉氏の思考法を探ったインタビューの後編をお届けする。
 
ラクサス・テクノロジーズ 代表取締役社長 児玉昇司氏(左)、エトヴォス 取締役 COO(最高執行責任者)田岡敬氏(右)

着想からローンチまでの10年間


田岡 2006年にラクサスの元になるビジネスの着想を得て、実際にサービスをローンチしたのは、約10年後の2015年です。なぜ、そのようなタイミングになったのでしょうか。

児玉 2006年にライブドアショック、2008年にリーマンショックが起きたからです。当時、起業した社長はみんな知っていますが、監査法人も新規取引を減らしたんです。なので、しばらく資金調達がうまくできない状況が続きました。
児玉昇司氏
ラクサス・テクノロジーズ 代表取締役社長

広島市出身。シリアルアントレプレナー。早稲田大学EMBA修了。ラクサスは自身4度目の起業。2015年毎月定額で有名ブランドバッグが無限に使い放題(貸したり借りたり)になるC2Cシェアリングプラットフォームアプリ「Laxus(ラクサス)」をローンチ。ローンチから50ヶ月連続で拡大中。会員数は30万人、流通総額は350億円を突破して推移。会員継続率は90%以上。WiLを中心に20億円以上を調達。

田岡 すぐに始めたかったけれど、できなかったということですね。

児玉 その代わりに通信販売のビジネスなどで、2014年までに必死に7億円を貯めました。そして2015年に、ようやくラクサスがローンチできたんです。
 
アプリから好きなバッグを選ぶだけで、憧れのブランドバッグを借りることができる。月額6800円でレンタル期間無期限。
田岡 どのように7億円を貯めたのですか。

児玉 僕は、通信販売ビジネスが得意なんですよ。田岡さんは、英語教材の「エブリティイングリッシュ」は、ご存知でしょうか。現在は販売を終了していますが、2007年に英語教材として国内売上No.1を獲得したこともある商品です。実はこれ、僕がつくったのです。

田岡 そうなんですね、びっくりです。

児玉 日本では、英会話を聞き流すことで勉強するサービスが有名ですよね。ただ、そうした教材は、米国人に依頼してつくってもらっていることが多く、現地の日常会話が教材なのです。

 僕も実際に聞いてみたところ、「ミラーさんが家にやってきたので、庭でバーベキューをすることにしました」といったシナリオでした。でも、日本人にとって庭でバーベキューをするというシチュエーションはほとんどなくて、そこで習ったフレーズを使う機会は少ないはずです。

 逆に、僕が米国に旅行して困ったのは、アパレルショップで色やサイズ違いの商品在庫を尋ねたり、税関で受け答えをしたりしたときでした。その経験から、日本人向けに特化した教材をつくったところ、大ヒットしたんです。

 今でいう「D2C(Direct to Consumer)」ですよね。その他にも「iCosme(アイコスメ)」という化粧品のサブスクリプションサービスも手がけていました。

田岡 ラクサスの前からサブスクリプションモデルを経験されていたのですね。それならば、F2転換(1回目に購入した顧客が2回目に購入すること)が大変で、F3(2回目に購入した顧客が3回目に購入すること)を超えると安定するなど、ダイレクトマーケティングの基本も理解されているわけですね。
田岡敬氏
エトヴォス 取締役 COO(最高執行責任者)

リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。

児玉 はい。D2Cの利益率の高さなども理解しています。

田岡 好調だったにも関わらず、なぜ英語教材のビジネスを止めたのでしょうか。

児玉 僕は世界を変えたいと思ってサービスを提供していたのですが、英語では変わらなかったからです。なぜかと言うと、教材を買った人の大半は、買ったことに安心して勉強しないんです。

 約100年前、島崎藤村は『夜明け前』という本の中で、「10年後、英語ができない日本人には仕事がない」というようなことを書いています。でも、100年後の今も同じようなことが言われています。それなら、この先も英語ができなくても仕事はなくならないだろうと思いました。

田岡 英会話サービスは幽霊会員で成り立っている面も大きいですよね。

児玉 そうなんですよ。そんな実際に役立っていないサービスを死ぬまでの時間つぶしでやるには、もったいないなと思って。

田岡 最近は、翻訳機も出てきましたからね。

児玉 はい。当時、「エブリティイングリッシュ」は、在外日本人を対象に85カ国に向けて輸出していましたが、そもそも日本語を使っている人は、全世界で2%しかいません。その人だけを変えることに魅力を感じなくなったというのも辞めた理由ですね。

田岡 グローバルに展開できるサービスを提供したいと思ったわけですね。

児玉 そうです。結果的にラクサスをローンチした2015年は、日本でスマートフォンが一般に普及し、その扱いにも慣れてきた頃でした。結局、タイミングも良かったと思います。

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