ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #30

なぜM&Aした企業を成長させられるのか。じげん平尾丈社長が語る「コクピット型マネジメント術の極意」

前回の記事:
創業から12年増収増益で利益率30%、じげん平尾丈社長が語る「連続して成長できたビジネスモデル」
 創業から12年間増収増益を続けているじげん。2018年6月には東証一部に市場変更し、売上は128億円、営業利益は40億に上る(2019年3月期)。前編に続き、後編では積極的に行っているM&A(12社)の秘訣について、じげん 代表取締役 社長執行役員 CEOの平尾丈氏に聞いた。
 

M&Aで企業を口説き落としてきた姿勢


田岡  前半では、じげんのビジネスモデルについて伺いました。じげんにとって事業領域を広げていくM&A戦略が重要だと思いますが、これまでどのような会社を取得されてきたのですか。

平尾  美容系の求人サイト「リジョブ」や中古車輸出サイト「tradecarview」、人材会社向けのシステム事業を行う「ブレイン・ラボ」など、12件のM&Aを行っています。

小さいところだと買収金額は10億円程度、大きくても数10億円規模です。各社取得時から比べて少なくとも倍、多ければ10倍に利益水準が上がっているので、今のところ成功しているのではないでしょうか。

田岡  その業界のプラットフォームになるような事業ですね。M&Aでは、今後じげんが強化していきたい領域のユーザーやクライアント企業を抱えている企業が対象ですか。

平尾  はい、経営戦略にある「ライフメディアプラットフォーム」の構築に資するものという大前提はありますが、資産性の高いものを持っているかという観点は大事にしています。

資産性が比較的に高いのは法人顧客の商流、特にSMB(Small and Medium Business:中堅・中小規模の企業)との取引です。その意味で、リジョブやアップルワールド、三光アドは数千社の法人顧客との取引があります。法人の商流はスイッチングコストが高いので、M&Aでの獲得には合理性があると思っています。
平尾丈氏
じげん 代表取締役 社長執行役員 CEO

1982年生まれ。2005年、慶應義塾大学環境情報学部卒業。大学在学中に2社を創業し、1社を経営したまま、2005年リクルート入社。人事部門・インターネットマーケティング局・事業開発室などを経て、じげんの前身となる企業の取締役となる。その後代表取締役社長に就任し、MBOを経て独立。2013年東証マザーズ上場、2018年6月、東証一部へ市場変更。2012年より8年連続で、「日本テクノロジー Fast50/アジア太平洋地域 テクノロジー Fast500」受賞、及びGreat Place To Work「働きがいのある会社」ランキングに選出。

田岡  法人営業は、労働集約的な要素が強いですよね。

平尾  その通りです。当社のM&Aは、主に時間を買うものだと思っています。もう一段階先の打ち手は、クライアント企業に対して成果報酬だけではなく、他のモデルを提案して収益の多角化を進めていくことです。 

田岡  なるほど、まずはコンバージョンにつなげる力で業界を横に広げて、そのあと法人向けの営業を強化することで縦に伸ばして、面積を広げていくわけですね。

平尾  はい、当社のテクノロジーとストラテジーで「ユーザー数」と「法人クライアント数」を増やし、N数が増えることによりノウハウが貯まり、それらをマッチングさせる「コンバージョン率」も伸ばしてビジネスを広げていくイメージです。

田岡  M&Aを持ち掛けるときの口説き文句は、あるのですか。
田岡敬氏
エトヴォス 取締役 COO(最高執行責任者)
リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。


平尾  すべてがスムーズに進んだかと言うと、そうではなく、社長が若いというだけで嫌がられることもありました。その中でうまく話が進むのは、M&Aで「企業が成長する」ということを評価していただくケースです。

当社は、売上を伸ばすためのパートナーとしてお声がけしています。そのため、外部から見える情報を基に我々の方から事業計画を資料にまとめて、こんなふうに成長させるので譲ってくださいというアプローチをしています。

田岡  プレゼンは、平尾さんがやられるのですか。

平尾  はい、そうです。M&Aに際してファンドや事業会社などと競い合うケースもあります。ただ、彼らは事前に事業計画をつくらず、ヒヤリングやデューデリジェンス(投資先の価値やリスクの調査)をしながらまとめます。

一方で、当社は少ない情報の中で事業計画をつくり、ヒアリングの段階で提案してデューデリジェンスで新しい情報をいただいたら、一度持ち帰って検討しなおして、より具体的かつリアリティのある提案を再度しています。そうした姿勢がオーナーから評価されることがあります。 

田岡  実際に、どのようにM&A先のビジネスを伸ばすのですか。クライアント開拓もサポートするのですか。

平尾  はい、もちろんです。まずはユーザー数を伸ばすところから始め、その後に「媒体価値がこれだけ上がったのだから単価も上げさせてください」といったところまで、前述の好循環が回るように何段階かに分けてサポートしていきます。

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