ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #31

「北欧、暮らしの道具店」 青木耕平氏が会社の成長スピードは遅くても構わない、と語る理由

アンチテーゼをぶつけ、新たなテーゼを導く


田岡 実験の進め方としては、「しっかり仮説を組み立ててから実行すること」と「とりあえず、やってみること」のどちらが多いのですか。

青木 後者が圧倒的に多いですね。以前、ヤフーの井上大輔さん(ヤフー メディアカンパニー マーケティングソリューションズ統括本部 マーケティング本部長)と雑談したとき、「北欧、暮らしの道具店」のアプローチは、「弁証法的だ」と言われました。

弁証法は、テーゼ(定立)に対するアンチテーゼ(反定立)を打ち立てて、それらを統合して新しいテーゼに発展させていくという考え方です。アンチテーゼは考え抜いたものである必要はないため、とにかく数をぶつけ続けているんです。

つまり、どうなるか分からないと思いながら、やっていくことの方が多いんですよ。どうも現代のテーゼは古くなっていて、新たなテーゼが必要になっているという感覚だけがあります。



田岡 その感覚は、すごく分かります。

青木 「北欧、暮らしの道具店」らしくないと受け止められるTikTokやYouTubeを使うのも、このアンチテーゼをたくさん考えるスタイルのせいだと思います。

「北欧、暮らしの道具店」で企業からのタイアップ広告の扱いを始めたときもそうでした。もともとECサイトだった私たちの在り方からすると、広告とは縁遠く思われそうですが、それは広告という存在が合わないのではなく、それまでのフォーマットが合わないだけだったんです。それを私たちらしく調整すれば、できるはずだと考えました。

田岡 ひたすらアンチテーゼをぶつけるという考え方は、青木さんのどのような経験に基づくものなのでしょうか。

青木 これまで、私自身が「常に少数派だった」という意識が強かったからかもしれません。私は大学に進学したわけでも、きちんと会社に就職したこともありません。

「いつも小難しい話ばかりする」なんて言われたり、ときには「俺たちの仲間じゃない」と思われることもありました。常に自分の居場所を探し、様々なコミュニティを去り続けた結果として、今があります。

そうした意識は、今も引き続き感じているので、どうしてもアンチテーゼを考えてしまうんですよね。
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