ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #32

巨大プラットフォーマーに依存しないために、「北欧、暮らしの道具店」が見いだした唯一の道

前回の記事:
「北欧、暮らしの道具店」 青木耕平氏が会社の成長スピードは遅くても構わない、と語る理由
 インテリア雑貨のオンライン販売にとどまらず、広告事業や映画など、事業領域を広げて成長している「北欧、暮らしの道具店」。第一回に続いて、ECの枠を超えて新たな挑戦を続けるクラシコム 代表取締役の青木耕平氏に、目指している世界と、その裏にある考え方を聞いた。
 

「北欧、暮らしの道具店」は、“パブリッシャー”である


田岡 前回のお話の中で、ビジネスをアナロジーで捉えることが大切だとお話されていました。では、「北欧、暮らしの道具店」のことは、どのように説明しているのですか。

青木 「北欧、暮らしの道具店」のアナロジーは、どんどん更新している気がします。最初は北欧のアンティークを販売する「ECサイト」としてオープンしましたが、そもそも「ECサイトはインターネット上の店舗である」ということ自体がアナロジーですよね。次に僕らは単なるECサイトではなく「メディア」であるという言い方をするようになり、その後2015年頃からは「パブリッシャー」と言っています。

当時は、メディアという言葉で自分たちを説明しきれないと思うようになって、おそらくパブリッシャーだろうと思うようになったんですが、正直に言うと、その意味を本当に理解して言っていたわけではありませんでした。ただ、この1、2年でようやく分かってきました。
青木耕平氏
クラシコム 代表取締役

2006年、実妹である佐藤と株式会社クラシコム共同創業。2007年秋より北欧雑貨専門のECサイト「北欧、暮らしの道具店」を開業。「フィットする暮らし、つくろう。」というコンセプトのもと、北欧に限らず、世界各地、そして日本の、実用的でありつつ暮らしを彩るものを独自の視点でセレクトして販売している。現在は、EC事業のみならず、オリジナル商品の企画開発、WEBサイト上での日々の暮らしに関するコンテンツ配信や、企業とのタイアップ広告、リトルプレスの発行など多岐にわたるライフスタイル事業を展開中。

田岡 パブリッシャーであるということは、どういう意味ですか。

青木 パブリッシャーという事業体は、一番下に「①プラットフォーム」があって、その上に「②コンテンツ」が乗っかり、さらにその上に「③IP(Intellectual Property:知的財産権)の運用」があるという構造になります。

例えば、大手パブリッシャーのKADOKAWAの成り立ちで説明すると、最初のプラットフォームは「①雑誌」です。そもそも多くの出版社の立ち上がりは、そのほとんどが雑誌のプロダクションと流通としてですよね。そこから生まれた作品を「②書籍」化することで、言わばコンテンツ課金するようになりました。さらに、そのコンテンツ(書籍)をプラットフォーム(雑誌)で推すというような構造をもって進化していきます。

その上で、コンテンツを「③アニメや映画、グッズ」など、IP運用につなげていきます。我々も、この進化に則って成長していると考えています。

私たちの場合、WebサイトやSNSはもちろん、買い物をした人に無料で配っている冊子や手帳、ドラマなどがプラットフォームです。そして、コンテンツ課金に当たるものが商品販売です。もともとは海外の翻訳本、つまり仕入れを中心にやっていたところが、徐々にオリジナル企画の商品が増えて、現在は5割ほどになっています。

そうすると必然的にIP運用に目が向くようになり、現在は動画制作を始めています。

田岡 どのような動画ですか。

青木 「北欧、暮らしの道具店」内のインタビュー記事がヒットした人を題材にドキュメンタリー動画をつくり始めています。

動画以外のIP運用としてグッズ化も始めました。最近であれば、ライオンさんが提供しているブランド「Magica(マジカ)」とコラボレーションして、オリジナルボトルが付いた商品を企画するお仕事をさせていただきました。

田岡 出版で言う「一次コンテンツ(小説やマンガなど)」と「二次コンテンツ(それらの映画化やアニメ化、グッズ化など)」ですね。
田岡敬氏
エトヴォス 取締役 COO(最高執行責任者)

リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。

青木 そうです。さらにメディアとしてのサイトは、物販だけでなく広告でもマネタイズしています。ラジオ、ドラマ、記事、小冊子も、すべてタイアップを取りました。

コンテンツは顧客に直接販売しますが、プラットフォームのマネタイズは、基本的にBtoBビジネスでやるべきだと考えているんです。

そして、コンテンツが充実してきた先でIP運用を始める、というのが私の思っているパブリッシャーです。

田岡 パブリッシャーになることで、立体的に収益が得られますね。
 
「北欧、暮らしの道具店」がYouTube上で公開している短編ドラマ「青葉家のテーブル」の長編映画化が7月21日に発表された。2020年秋の公開を予定している(写真撮影:木村文平)。
 
「青葉家のテーブル」シングルマザーの⻘葉春⼦(⻄⽥尚美)、その息⼦のリク(寄川歌太)、春⼦の歳の離れた友達めいこ(久保陽⾹)とその彼⽒ソラオ(忍成修吾)が同居している⻘葉家の日常を描いている。
 

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