ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #37

BtoB企業におけるCMOの役割は、インナーコミュニケーションにある【トランスコスモス 佐藤俊介】

前回の記事:
「君は何者にもなれないよ」とあおることも。起業には100%の思い込みが大事
 インターネット広告会社のエスワンオー、ファッションブランドのサティスファクションギャランティード、ソーシャルメディアの解析ツールを提供するソーシャルギアなど、さまざまな企業を設立してきた、現トランスコスモス 取締役 上席常務執行役員兼CMOの佐藤俊介氏。インタビュー最終回となる第三回では、佐藤氏が現在どのようにトランスコスモスに変化を起こそうとしているのか聞いた。
 

ベンチャーと大企業のハイブリッド経営に取り組んでいる


田岡 佐藤さんは現在、トランスコスモスでCMO(Chief Marketing Officer、最高マーケティング責任者)を務めていらっしゃいます。社員5万人を抱える大企業ですが、これまでの起業家として経歴からすると意外な印象です。

佐藤 たしかに、経歴からすると真逆かもしれません。だからこそ、奥田社長(代表取締役社長兼COO奥田昌孝氏)は僕のような人材が欲しかったと言えるでしょう。今は大企業の仕組みを勉強しながら、自分にしかできないことをやるようにしています。
佐藤 俊介氏
トランスコスモス
取締役 上席常務執行役員兼CMO

2001年、日本大学理工学部建築学科卒業。2006年にエスワンオーを創業。2010年よりファッションブランドsatisfaction guaranteed設立のためシンガポールに事業拠点を移した。2011年、エスワンオーインタラクティブをオプトホールディングに売却。2016年、ソーシャルギアをトランスコスモスに売却し、取締役CMOに就任。2017年に俳優の山田孝之と一緒にミーアンドスターズを設立、代表取締役社長兼CEOに就任。

田岡 どのようなことをしているのですか。

佐藤 僕が取り組んでいる中で面白いのは、CMOボックスです。社員がイントラネット上のCMOボックスにアクセスして、会社に対する要望や疑問などを送ると、僕に届くようになっています。僕はそれを読んで必ず直接、返事をするようにしています。

田岡 たくさん、届きますか。

佐藤 はい、ソーシャルの時代だなと思うのですが、相手の顔が見えると、みんないろんな意見を言ってくれるんです。新卒で入社したばかりの人、明日退職するという人、契約社員など、さまざまな人の声が届きます。

これが会社の総務宛だと、変化を期待していないからなのか送らないのですが、会社の取締役に届くとなると、もしかしたら何かが変わるかもしれないと思って投函してくれるんです。

田岡 佐藤さんが返事をされるんですよね。

佐藤 そうです。まず声が届いたら、事実確認をしています。内容に応じて私から本部や総務、人事などに問い合わせると、「何年か前にこうした事態が発生したので、このようなルールにしたんです」といった理由が返ってくるんです。それを社員が知らないことが多いので、私から直接こんな背景がありました、と返してあげるんです。

田岡 届いた声が会社の戦略に大きな影響を与えることは、ありますか。
田岡敬氏
エトヴォス 取締役 COO(最高執行責任者)

リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。

佐藤 そこまでは、もう少し時間がかかると思います。ただ、採用や人事には絶対に良い影響を与えていると思います。過去には、今の部署に合わないので異動したいという人から、私に会いたいという連絡が来て、実際に話を聞いた上で最終的に異動して、いまは生き生きと働いている、ということもあります。

なかには、おもしろい問い合わせもありますよ。オフィス内にある自動販売機のジュースの値段が外にある自動販売機よりも10円高いと連絡がきて、実際に総務部門に調べてもらったところ、外の方はちょうどキャンペーンをしていたということが分かりました。

それで、調べた結果を私から回答したら、問い合わせをくれた人も、それからはいろんな意味で真剣に考えるようになったと聞きました(笑)。

田岡 答えてもらう側も、責任を持って発言するようになりますね。取締役と総務部門を動かしているわけですから。

佐藤 そうですね。そういうやり取りを繰り返していくと、社内規定はじめ、ほとんどのことはイントラネネット上で網羅されているため、何かアクションする前に自分で調べたりするようになるかもしれません。

田岡 CMOボックスは、インナー向けの施策ということですね。

佐藤 その通りです。社内に向けたマーケティングです。BtoCビジネスであれば、消費者の動向を見ることがCMOの役割だと思うのですが、トランスコスモスはBtoBビジネスです。BtoBビジネスが主軸のCMOにとって、社内向けのマーケティングも重要な役割だと思っています。

組織が大きくなると、どうしても経営陣は現場の声を聞かなくなっていきます。この取り組みは、部門に関係なく声を聞けるので、すごく価値のあることだと思っています。

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