「元書店員マーケター」オススメの一冊 #01

【書評】マーケターは元・セブン&アイCIO 鈴木氏の苦悩に共感し、デジタルシフトを推進すべし

Amazonにどう立ち向かうべきか

 そして著書の中では、セブン&アイ・ホールディングスのCIOとしてオムニチャネルを進める中での失敗について、次のように考えている。

 ネットとリアルの融合を「リアル+ネットの足し算によるデジタル化」の中で進めてきたが、「リアルでの成功体験」「店舗をベースにした顧客中心主義」では、Amazonの「ライフタイムバリュー×アクティブユーザー数」を基本とした「顧客の体験価値」を最大化する考え方に勝てない。

 私自身もいくつかの企業で社員や役員、コンサルタントとしてオムニチャネル化を進めてきたが、必ず「他社の事例は?競合はどうしている?」と聞かれ、「わが社では過去から、このやり方で進めてきた」と言われる。

 多くの企業が顧客や世の中ではなく自社の過去に向き合い、悪い意味での社内政治に業務時間の大半を使っているのが現状だ。それは20年前に私がネットの世界に入ったときと、今も変わらない組織の悪弊だ。
 
 この本で、鈴木さんが語るように、「Amazonショック」「クラウドショック」「AI/IoTショック」「教育ショック」を当たり前のものとして受け止めながら、自社ならではの顧客戦略を打ち出し、その施策実行のためのIT投資と社員教育をきちんと考えてほしいと思う。

 私はこの本を読み終えた後に、鈴木さんが苦しんだこの何年間かを思い浮かべた。そして、だからこそ、いま、あの穏やかな顔で経営者や企業を叱る鈴木さんが生まれたのだとわかった。

 企業の中で横断的な業務に取り組むマーケターにこそ、この苦悩に共感し、提示されるいくつものヒントを踏まえて自らの考えを整理し、デジタルシフトに向けた次のステップに進んでもらいたい。

<書籍情報>
『アマゾンエフェクト~「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか』鈴木康弘・著(プレジデント社)
詳細はこちら(Amazon)
 
続きの記事:
【書評・逸見光次郎】店舗とECのあるべき姿が分かる良書『店は生き残れるか』(小島健輔・著)
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