「元書店員マーケター」オススメの一冊 #02
【書評・逸見光次郎】店舗とECのあるべき姿が分かる良書『店は生き残れるか』(小島健輔・著)
豊富なデータから真実を紡ぎ出す良書
ファッション業界のご意見番である小島健輔さんの新刊『店は生き残れるか ポストECのニューリテールを探る』が7月1日に発売された。私と小島さんとの出会いは、2016年3月に小島さんが運営するファッションビジネスの実務研究会「SPACセミナー」で、オムニチャネルをテーマに講演させていただいたことだ。このセミナーはマルチチャネル、O2O、WEBと店舗の連携などについても議論を重ねている。
もともと小島さんは、恐ろしいほどにデータを活用する。いわゆるビックデータから各種統計データ、商業データまでを結び付けて分析し、そこから読み取れた情報を提言するのだ。だからこそ、この本も時間をかけてデータを精査して書かれている。
実は、私はファッションに弱い。デザインの良さや感度について、語る言葉を持たないのだ。しかし、小島さんがデータで「見える化」して説明してくれるため、私でも理解しやすい。そしてアパレル店舗でのオペレーションや在庫管理とともに、ビジネスのストーリーとして語ってくれる。
例えば、「ECと店舗販売の効率は、こんなに違う」として不動産費、販売費(人件費、光熱費、カード手数料)などの経費率をECと店舗で比較している。
自社運営ECと店舗販売の経費率推移
「在庫と顧客の一元化が要」として店舗とECの在庫連携、顧客管理の一元化によるメリットを語り、ECモール・ビジネスの複雑化を問う。また、「物流関連費が収益を圧迫する」としてECの物量が増えた際のピッキング効率化の限界や、宅配外注による送料のスケールディスカウントの壁についても言及している。さらに、「“販物一体”流通の欠陥」として小売店舗の物理的在庫制約と販売機会ロスや、店内マテハン(棚への陳列やたたみ直し)作業の非効率性、そして顧客自身が必ず店舗まで物理的移動を強いられるデメリットについて語り、店舗からECへのシフトを唱える。
ECサイトと都心百貨店の経費率推移
アパレル外衣の需給バランスと中古衣料の輸出総量推移
アマゾン、スタートトゥデイ、しまむら、イケア、ニトリなどの企業分析も行い、より読者がイメージしやすいよう、それぞれの強みや課題、利便性を感覚ではなく数字で語っている点も興味深い。数字が苦手でもグラフでわかりやすく解説されているのだ。私が普段、コンサルティングする中でも、よく経営者が「あの会社はすごいよね」と発言するが、「どうしてですか?」と聞いても主観的な論拠しか返ってこないケースが多い。あれでは部下は何をしていいのかわからず、単に施策を真似するだけになる。
小島さんが、数字で「見える化」することで社内外の人の理解を導き出し、正しい目標を設定できるようになる。それでこそ、各人が経営者視点で活躍できるようになるのだ。