ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #47
表向きは「そうですね」裏では「やらなくていい」に直面。 オルビス小林琢磨社長は、どう組織改革を断行したのか
オルビスの社長に就任後、基幹ブランド「ORBIS U(オルビス ユー)」のリニューアルや、飲むスキンケア「ORBIS DEFENCERA(ディフェンセラ)」新発売など、次々と新しい施策を展開しヒットにつなげている小林琢磨氏。ヒット商品について聞いた前編に続き、後編ではどのように社内を改革し組織を牽引しているのか、エトヴォス COOの田岡敬氏が迫りました。
就任初日に「お客さま視点」で組織改革を断行
田岡 小林さんが社長に就任され、ブランドコンセプトやミッションを定め直すことで各部署の行動は変わりつつありますか。
小林 すぐに全員の行動を変えるのは現実的に難しいので、まずは30歳前後の社員を集めてプロジェクトチームをつくりました。組織全体を探せば、現状に疑問を持っている人は必ずいる。だから、そういう人たちとコミュニケーションをとって少しずつ火を付けながら徐々に伝播させようという狙いです。
田岡 では、その人たちが横串でつながって全体最適に向かって活動していく感じでしょうか。
小林 はい、それが2019年に入ってかなり進みました。2018年は社内に「何で変革しなきゃいけないんだ」という空気が漂っていました。というのも営業利益が20%近いため、たとえ営業利益が95億円から92億円、90億円と減っても危機感にはつながらないんです。でも実際にはこのままいけば本当に衰退期に突入し、「取り返しのつかない沼」にはまっていくことは明確です。そうした状況で少し強引に変革を実行したところ、一部社員から不満が続出しました。
小林 琢磨
オルビス 代表取締役社長2002年ポーラへ入社、2009年にグループの社内ベンチャーで起ち上げた敏感肌専門ブランドのDECENCIA取締役、2010年同社代表取締役社長へ就任。急成長に導き、同ブランドを大きく飛躍させた後、2017年オルビスのマーケティング担当取締役、2018年に代表取締役社長に就任。リブランディング、構造改革を実行している。ポーラ・オルビスホールディングス上席執行役員を兼務。早稲田大学大学院MBA
オルビス 代表取締役社長2002年ポーラへ入社、2009年にグループの社内ベンチャーで起ち上げた敏感肌専門ブランドのDECENCIA取締役、2010年同社代表取締役社長へ就任。急成長に導き、同ブランドを大きく飛躍させた後、2017年オルビスのマーケティング担当取締役、2018年に代表取締役社長に就任。リブランディング、構造改革を実行している。ポーラ・オルビスホールディングス上席執行役員を兼務。早稲田大学大学院MBA
田岡 どんな変革をされたのですか。
小林 まず取り組んだのが組織変革です。従来からある「通販事業部」と「店舗事業部」という分け方をやめて、戦略を考える「戦略部」と売上を担い執行する「営業部」に振り分けました。
田岡 組織の既得権をなくされたわけですね。
小林 それもありますが、お客さまの視点から見れば、通販と店舗で分けてコミュニケーションするなんて、ありえないですよね。「店舗でサンプルをもらって使い心地が良かったから、次回からはスマートフォンで買う」なんて、当たり前に起きている行動です。
それまでは、通販事業部と店舗事業部がお互いに干渉しないどころか、担当役員や部長が部署間で入れ替わったこともなく、まるで別会社という状態でした。それを私が社長に就任した1月1日付で変えたものだから、想像以上の大混乱で・・・。
田岡 いきなりですか(笑)。就任前から考えていたことなんですね。どのような混乱が起きましたか。
田岡 敬
エトヴォス 取締役 COOリクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。
エトヴォス 取締役 COOリクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。
小林 オペレーションレベルで言えば、「この業務は戦略部と営業部のどちらが担当するんだ」といった役割分担です。もうひとつはマネジメント層に負の空気を出させてしまいました。自分が10年以上働いてきた部署が突然なくなったので、反発だけでなく不安感も生んだと思います。
田岡 それから1年以上経過されて、今は乗り越えられた感じですか。
小林 はい。変革時は、どうしても若い人にだけスポットを当て過ぎてしまうのですが、会社の中で影響力があるのは管理職です。そこで組織の結節点となる管理職の育成と日常のオペレーションを支えてくれる部署やグループにもスポットを当てられるように、HR戦略部と一緒になって表彰制度を見直しました。
また、4半期に1回丸3日間、私がスケジュールを空けて「私と話したい人」が面談のスケジュールを自由に入れられるようにして、社員と話す機会をつくるようにしています。通称「小林の部屋」です。社内ですでに商品企画部長が行っていた企画を真似しました。
田岡 ちなみに組織編成で店舗とWebを混ぜたときに、Webの人が店舗を担当したり、店舗の人がWebを担当したり、わざと業務をたすき掛けにすることもあったのでしょうか。
小林 はい、そうしました。現在、営業側で店舗のマネージャーをしているのは、情報システム部しか経験したことのなかった社員ですし、Webで新規獲得のマネージャーをしているのは、入社以来12年間店舗しか担当したことがなかった社員です。
その分、それ相応の混乱を生んだんですが、まったく違う世界に放り込まれてからドライブがかかって、ブレイクスルーするメンバーが出てきています。