「元書店員マーケター」オススメの一冊 #08
心理から「ロイヤルティマーケティング」を学ぶための良書【書評】
エンジニアによる「顧客心理を数値化」する試み
顧客心理のマーケティングロジックを書いている本は何冊もあるが、実際に現場で試しながら「NPS ®(Net Promoter Score・顧客推奨度)」や「NRS(Net Repeater Score・顧客継続度)」、カスタマージャーニーを結び付けて具体的に示した本は少ないと思う。
この書籍『お客様の心をつかむ 心理ロイヤルティマーケティング』は、その少ない中の1冊。著者の渡部氏とは、私がカメラのキタムラ時代にコールセンター業務でお世話になったご縁で、その後もロイヤルティマーケティング領域でいつもご教示いただいている。
渡部氏はもともと日本ユニシスや日本IBMのエンジニアとしてCRM領域に携わり、その後にコールセンター業務支援会社を経て独立し、コンサルタントになった。
これまでのキャリアで、さまざまなCRMのフレームワークを学び、カスタマーサクセスなどの考え方に触れる一方で、経営者からの「それで、なんぼ儲かんねん」(“はじめに”より)という現実に対応するフレームワークを見出そうとされてきた。本書は、エンジニアが顧客視点で「顧客心理を数値化しよう」という大胆な試みなのである。
顧客満足と収益を結ぶ3つのロイヤルティ
「心理ロイヤルティを高めると、それが行動ロイヤルティに影響を及ぼし、さらにそれが経済ロイヤルティを高め、収益に貢献するのです」(“はじめに”より)
渡部氏は、この3つのロイヤルティに注目し、まず「心理ロイヤルティは、お客様と企業や商品との接点での満足から成り立っています」と定義している。
そして、心理ロイヤルティを横軸にして、実際に商品を繰り返し購入したり、知り合いに推奨したりする行動ロイヤルティを縦軸にして、それぞれが最大化したところに「当社の未来を支える良い売上」が存在するとし、収益とロイヤルティの関係を明確化している。
そして、その手前を「当社の今を支える不確実な売上」「当社の未来のリスクになる悪い売上」として位置付けている。
財務諸表である“売上”を顧客ロイヤルティとの関係を明確な定義によって、“見える化”しようとしているのだ。必ず聞かれる「なんぼ儲かる?」に対する明確な答えだ。
筆者もよく「顧客満足は重要だ。しかし、それが売上・利益にどう結びついているのか知りたい」と聞かれる。その際には、新規/既存顧客と、各顧客単価と購買頻度を分解して答えているが、顧客満足の本質であるロイヤルティにまでは踏み込んではいなかった。渡部氏は、ロジックと実践からこの答えを生み出したのである。