ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #51
吉野家 伊東正明氏が明かす、ヒット商品を生み出す「アイデア開発とフレームワーク」
アイデアとフレームワークは、どちらが先か?
田岡 先ほどから具体的なアイデアと、フレームワークと両方の話をされていますが、アイデアとフレームワーク、どちらを先に考えるんですか。
伊東 どうでしょう。7:3くらいでフレームワークから入っているかもしれません。簡単に言うと、まさに今日、田岡さんがインタビュー用に持ってきてくれたフレームワークのように、時間帯、店舗形態、新規既存顧客別、頻度アップ施策なのか単価アップ施策なのか、といった軸で考えていきます。
しかし、この表に唯一入っていないのが、「どういう顧客なのか」という人軸。外食は誰が、いつ、どこで、何を食べているかが大事なんですよ。例えば、表内の「生活圏内ビルイン」だと、平日夕方ご来店するお客さまには「今日は出来合いを買って帰りたい主婦」と、「会社帰りに晩ご飯をひとりで食べる男性」がいます。
前者が注文するのは「3人前でお得なテイクアウト・セット」、後者は「おかず2品のW定食で、ご飯おかわり無料」のように、同じ店・同じ時間帯でも異なる施策を用意することが必要です。
田岡 なるほど、マーケットから見ているんですね。アイデアとフレームワークの話で言うと、私は、アイデアが先なんですよ。アイデアを分解してフレームワーク化して、そこからもう一度アイデアを探しにいくという。
伊東 私もそのキャッチボールは、常にやっていますね。結局、考え方はパターン化していくんです。たとえば、外食回数1095回という考え方は、実はP&Gのファブリーズのときと同じ。使用回数を見て、どこまでターゲットを広げればよくて、その頻度はどうで、という考え方です。
飲食業では、新規を取るよりも来店頻度を上げる方が、実は圧倒的にビジネス効果が高いんです。なんといっても、お客さまは購入意思決定を1095回しているわけですから。
もともと興味がない人を連れてくるのは大変ですが、1回の人を2回にすれば、それだけでビジネスは2倍になります。これは当時のファブリーズも一緒で、購入者数を増やすより、購入頻度・使用頻度を上げる方が大きかった。
ファブリーズのときに考えていた、たとえばキッチンやトイレ、車といったシーンを、人の食べるシーンに置き換えて、お母さんが食事を選ぶ権限を持っているときと、お父さんが一人のとき、子どものときというふうにマトリックスが頭の中に揃うと、まったく同じように考えることができるんです。