ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #03

全社員がマーケター、ネスレ日本のイノベーションを生み出す仕組み【ネスレ日本CMO 石橋昌文(聞き手:ニトリ田岡敬)】

前回の記事:
売上対前年比160%、Twitter日本法人の急成長を支える笹本氏の仕事術【聞き手:ニトリ田岡氏 後編】

 ニトリホールディングス 上席執行役員 田岡敬氏が、第一線で活躍するビジネスパーソンから、その人がキャリアを切り開いてきた背景やイノベーションを生み出してきた思考法を探っていく本連載。
 第2回は近年、「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」「ネスカフェ アンバサダー」などで、新しい市場を開拓しているネスレ日本 CMOの石橋昌文氏が登場。これまでのキャリアと、イノベーションを生み出してきた同社の仕組みについて聞いた。

イノベーションを生む、ネスレ流マーケティングの定義

田岡 石橋さんご自身は、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)として、どのような役割をお持ちですか。

田岡 敬 氏
ニトリホールディングス
上席執行役員

リクルート、Pokemon USA, Inc. SVP、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、現職。ニトリのデジタル戦略を担当している。


石橋 消費者コミュニケーションに関わる全てに責任を持っています。商品パッケージから広告、ソーシャルメディアでのコミュニケーション、広報、店頭のPOPまで、全ての最終的な承認を私が行なっています。

石橋 昌文 氏
ネスレ日本
専務執行役員
チーフ・マーケティング・オフィサーマーケティング&コミュニケーションズ本部長

1985年ネスレ日本に入社。営業本部、ネスレUKを経て、1992年ネスレマッキントッシュ (現コンフェクショナリー事業本部)。2年間のネスレスイス本社での勤務を経て、2005年マーケティング統括部長。キットカットの受験生応援キャンペーンに携わり、成功に導く。2009年ネスレ日本 常務執行役員 コミュニケーションズ&マーケティングエクセレンス本部長、2012年チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)に就任。


田岡 ネスレにおける、マーケティングの定義とは何でしょうか。

石橋 当社がグローバルで定義しているマーケティングは、「製品のイノベーション/リノベーション」、そして「消費者コミュニケーション」の2つを柱としています。最終的にSKU、ブランド、カテゴリーのPL(損益計算書)に責任を持ちます。

 日本では、高岡浩三(現・ネスレ日本社長)がCEOに着任して以来、大きな変革を行ってきました。高岡がいつも言っているのは、マーケティングとは自分にとっての顧客を定義し、その顧客の持っている問題を探し、それに対するソリューションを考えて実行し、バリューをつくることです。そして顧客という存在は、消費者や流通だけでなく、その他のステークホルダーにも当てはまります。例えば、人事部にとっては、従業員やOB、就活生も顧客です。

田岡 それはつまり、全社員がマーケターということですか。

石橋 まさに、そうです。さらに、顧客の問題は2種類に分けられると考えています。それは、「顧客自身が気づいている問題」と、「まったく気づいていない問題」です。気づいている問題は調査すればすぐにわかりますが、それに対するソリューションを考えてもリノベーションしかできません。しかし、顧客自身が気づいていない問題を発見し、それを解決できれば、イノベーションが生まれる可能性があると考えています。

 例えば、扇風機。昔は団扇や扇子を使って夏の暑さを凌いでいましたが、電気が発明されて誰かが扇風機をつくった。これがイノベーションです。一方で、最初はオンとオフのスイッチしかなかった扇風機に、気温の変化に対応して風力を調整できるようにしたり、つけっ放しで寝てしまい風邪を引いた人がいたためタイマーを付けたり、これはリノベーションです。さらに言えば、部屋の温度や湿度を下げるためにエアコンが生まれた。これは、イノベーションでしょう。

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