ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #03

全社員がマーケター、ネスレ日本のイノベーションを生み出す仕組み【ネスレ日本CMO 石橋昌文(聞き手:ニトリ田岡敬)】

営業を7年間経験し、マーケティング担当へ

田岡 石橋さんは、社会人になられてから、ずっとネスレ日本ですか。

石橋 はい、今年で34年目になります。入社後5年間ほど日本で営業を担当した後、ネスレが買収した英国ロントリー・マッキントッシュ社で2年間ほど「キットカット」の営業を経験し、日本に戻る直前に、3カ月ほどマーケティングを経験しました。

田岡 イギリスで最初に、マーケティングを経験されたのですね。

石橋 はい、その際に貢献できたと自負している出来事があります。当時、ロントリー社はシークレットというチョコレートブランドの販売地域を広げているところでした。当時は製造ラインの新設に投資すべきかどうかを議論していて、日本人なら計算は得意だろうという勝手なイメージから、シミュレーションを任されたんです。

 そこで、各地域での販売状況を分析すると発売後は売れていたのですが、その後のリピート購入が少なく、各地域の民力や販売数量の推移などから計算して、最終的に投資をしない方がいいという結論を出しました。数年後にそのブランドは廃止したので、もし製造ラインを新設していたら数十億の損失を出していました。

田岡 その後は、一貫してマーケティングを担当されたのですか。

石橋 はい。途中で2年間ほど、スイスの本社でもマーケティングを経験しました。

田岡 スイスでの仕事は、各国の施策を承認することですか。

石橋 いえ、それは一部ですね。基本的にはグローバルでのブランド戦略をつくる役割で、オーストラリアや日本、中国から報告されるビジネスプランを確認し、中期計画を一緒に組み立てていく仕事でした。面白いのが、ネスレの菓子は国によって味が違うことです。一般的なグローバルな菓子メーカーは本国の味を各国に展開するのですが、ネスレは国ごとの好みに合わせて味を決めていきます。ここには、人口700万人という小さな市場のスイスで生まれた企業ということも関係していると思います。

田岡 味を決定するための、客観的なアプローチがあるのでしょうか。

石橋 はい、あります。まずはブランドマネージャーと開発担当者、それぞれの上司も含めて、テイスティングして最終的な味を決めます。その後、製造部門トップとCEOに承認をもらった後にスイス本社の承認をもらいます。ときどき、スイス本社の承認が降りないこともあって、私も過去に北海道土産用「キットカット」で、スイートコーンと北海道ポテト味をつくったのですが、スイス本社からは「何で、とうもろこしと、じゃが芋なんだ。コモディティでバリューがない」と言われて、「いやいや、日本人は北海道に旅行すると食べるんだ」と説明したことがあります(笑)。

田岡 スイス駐在後は、日本でマーケティングを担当されたわけですね。

石橋 はい、イギリスから帰国後、ずっと、マーケティングを担当していました。スイス駐在中に国内外のスタッフを集めた日本でのコンフェクショナリーのプロジェクトで、高岡と出会いました。その後、彼が日本のマーケティング本部長に赴任すると同時に、「スイスで遊んでいる奴がいる」と本当は3年いる予定だったのを2年で呼び戻されて(笑)、今に至ります。
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