ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #04
先ず行動、そのリアクションから次のビジネスを考える【ネスレ日本CMO 石橋昌文(聞き手:ニトリ田岡敬)】
受験生の心を掴んだキットカットのプロモーション
田岡 石橋さんご自身も、キャリアの中で消費者の課題解決につなげたという経験をお持ちですか。石橋 個人でというわけではありませんが、当時マーケティング本部長だった高岡と一緒に展開した「キットカット」の受験生応援キャンペーンですね。
田岡 どのような企画ですか。
石橋 当時の「キットカット」は、お母さんがスーパーで買ってくるブランドで、子どもからは自分のブランドだと認識されていませんでした。このままでは10年先、20年先にブランドが生き残れる保証はないと考え、まずはターゲットである高校生にどうすれば受け入れてもらえるかを議論しました。
「キットカット」が掲げているブランドスローガン「Have a break, have a KITKAT.」から、まず高校生にとってのブレイクは何だろうかと考えました。調査を踏まえて、キットカットのブレイクを「ストレスからの解放」と定義しました。高校生にとっての日常のストレスの元は「受験勉強」「恋愛」「交友関係」の3つだということも解りました。
そうした議論を行っているうち、九州の支店長から「キットカットが受験生の親に『きっと勝つと(=きっと勝つよ)』というゲン担ぎで買われているから、店頭用の販促ツールが欲しい」という相談がきて、受験が先ほどのキーワードにつながりました。実は、この支店長は前年にも本社に連絡をくれていたのですが、当時の担当者は、その価値に気づかずに却下していたんです。
そこで、受験生を応援するようなブランドにできないかと考え、いろいろなプロモーションを試したところ、ホテルでのサンプリングに反響があったんです。それはホテルに宿泊する受験生が受験会場に向かうときにフロントスタッフから、「試験がんばってね」という一言を添えて「キットカット」を渡してもらう企画です。ホテルからも受験生からも、ポジティブな反応がありました。
そのとき感じたのは、ブランドが直接、受験生を応援するのではなく、ホテルの人という第三者が主語になり、「キットカット」を使って受験生を応援するという構図にしたことで、心を動かせたということです。
田岡 「キットカット」が食欲を満たす菓子から、コミュニケーションツールに進化したわけですね。
石橋 はい。そのあと、この手法は主語が変わっても成立すると思い、鉄道会社やファミリーレストラン、タクシー会社、郵便局など、さまざまな企業とコラボレーションして同様のプロモーションを行いました。
若手にもよく言うのですが、ブランドのメッセージを伝えることは大事だけれど、それを消費者に理解される表現にしなければ何の意味もありません。このことに、「キットカット」での経験を通じて気づかされました。