米国・空軍ROTCから電通に行き着いた、クリエイターのキャリア論 #02

仕事のモチベーション向上の秘訣は、アメリカ軍隊の方式にあった

前回の記事:
「キャリアは計画された偶然」米国・空軍ROTC生が電通でクリエーターになるまで
 

軍隊式モチベーション維持の仕組み


 さて、前回の記事では、米国空軍ROTCで訓練を受けていた私が電通に入社するまでの経緯を紹介しながら「キャリアは計画された偶然」と述べたが、今回はもっと具体的な考え方について書こうと思う。

 言うまでもなく、軍人は世界で一番危険な職業である。私が所属していた訓練部隊の授業では「数え切れないほどのヒーローが軍服を着て戦地に出陣した。軍服には、敬意を払うように」と何度も言われた。



 死と隣り合わせの辛い仕事にも関わらず、なぜ街で見かける軍人はいつも凛々しく、活力に沸いているのか。それに比べると、日本の駅などで見かけるサラリーマンはどこか疲弊しているように見えてしまう。果たして、この差は一体何から生まれるのだろうか。

 給与か。いや、米国軍人の給与は各省が規定するもので、国家公務員レベルに該当するため、決して高いとは言えない。軍隊の中でもトップクラスである大将(民間の大企業での役員レベル)の基本給は、日本円にすると年間1400万円ほどで、戦地に赴く可能性があることを考えれば、低いと言った方が適切だろう。

 では、職場環境がいいのか。これも想像するに簡単で、緊急事態になれば生死に関わる環境が平和なわけがない。常に緊張感に包まれているのだ。

 軍人のような活力とモチベーションはどこから来るのか。それを説明するには、アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグ氏が提唱した「二要因理論(動機付け・衛生理論)/ Herzberg’s theory of motivation」で説明すると分かりやすい。

 普段の仕事での「職場環境や給与・ボーナス=外部要因」「自分の頑張りや成果=内部要因」とし、さらにこの外部要因を「衛生要因」、内部要因を「動機付け要因」とする。

 ハーズバーグ氏の研究では、人間は仕事上で不満や不平が生じた時は「衛生要因」に起因することがわかった。「職場環境がよくない、あの上司がダメ」みたいな、よくあるコメントが該当する。

 その一方で、人間は仕事上で満足が生じた時は「動機付け要因」に起因することもわかった。これはいわゆる「仕事に燃えている、頑張っている、さらには目標が達成されたとき」がこれに該当する。

 つまり、軍人のような使命感や国防といった「動機付け要因」が多く関係している仕事は、それ自体に対する満足度が大きいと言える。それは、給与や出世のような外部要因ではなく、個々の認識である内部要因が大きなカギを握っている。先述の「軍服を着ている軍人をヒーローとして扱うようにという発言」も、この動機付けの上では大切なのだ。

 例えば、私が以前、軍服を着て大学のキャンパスを歩いていると「国のためにありがとう。ランチを奢らせてくらないか?」と言われたりする。また違う場面では「その制服は空軍?ウチの息子は海軍だったわ」と声をかけられる。さらに軍服の左胸にはリボン(勲章を省略したもの)をつける場所があるのだが、写真や鏡を見る度に今の自分の立ち位置を再認識できる。これらも「動機づけ要因」の一部分となるのだ。

 このような経験を拙著『通年採用時代の就活デザイン』で記述しているが、生活のあらゆる節々でモチベーションを維持できる思い出があった。民間企業でも、キャリア形成でのモチベーション維持は、非常に重要だ。



 もちろん生活をする上で、お金(給与・ボーナス)はすごく大事だが、モチベーションの根本的な原因は、そのような外部要因だけではない。仕事にやる気が出ない理由は、あなた自身の内部要因が深く関係しているのだ。では、次からは何が必要なのか、考えたい。

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