ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #53

リユース業界の革命児。バリュエンス 嵜本社長が挑む世界攻略と、個人資産の見える化

前回の記事:
売上高370億円、経常利益23億円。バリュエンスは街の中古買取店から、どう急成長したのか
 街の中古買取店から始まり、現在は売上高370億円、経常利益23億円(2019年8月期)を超え、時価総額は200億円とブランドリユース業界の中でもトップに立つバリュエンスホールディングス(旧社名:SOU)。同社 代表取締役社長の嵜本晋輔氏に価値の源泉と、描いている未来について聞きました(取材日:2020年3月3日)。
 

「価格」よりも「接客」を重視する理由


田岡 バリュエンスは、「集客をオフラインではなくオンライン施策でする」「消費者から買い取ったモノをBtoCリユース事業者向けのBtoBオークションで売る」といった、先人たちが取り組んでいなかったことに取り組まれてきましたよね。お客さまからモノを買い取るときも、その“買い取り価格”よりも“接客”を重視されていると聞きました。

嵜本 そうですね。社員の人間力で勝負して、同じモノでも、人それぞれモノに対する思い入れが違うので、その人にとっての価値を見定めてプライシングするというのが僕たちのスタンスです。ただ単純にモノの価格だけを見るのでは、他社と差別化が図れませんから。  
   
嵜本晋輔
バリュエンスホールディングス 代表取締役社長
1982年、大阪生まれ。2001年、Jリーグのガンバ大阪に入団。JFLの佐川急便大阪SCを経て、2004年に現役を引退し、父親が営むリサイクルショップに入社。2007年に実兄2人とブランド品に特化したリユース事業会社「MKSコーポレーション(現ニュースタンダード・グローバルオフィス、以下同)」を立ち上げる。2人の実兄が洋菓子店事業に進出したのを機に、「MKSコーポレーション」のリユース事業を移管する形で独立し、2011年にSOU(現バリュエンスホールディングス)を設立。2018年に東証マザーズへの新規上場を果たす。

田岡 でも、お客さまの商品に対する思いを聞きながら、競合よりも安く買い付けることがあるのも少々、不思議に感じます。それをお客さまはどう受け取られているんですか。

嵜本 最終的に売るか、売らないかを決める要素は、実は価格以外にもあり、接客にどれだけ満足できたかが重要です。どんなサービスも金額を提示するその瞬間だけでお客さまから利益をいただいているわけではないですよね。

私たちも20分の商談時間の中で、価格を交渉する時間は最後の2~3分。どちらかと言えば、その前の18分に全力を注ぎ、そこでほぼ勝負を決めにいっている。だから価格交渉はほとんどせずに、お客さまには「それならあなたに売るよ」と言っていただいています。

田岡 品物に対する思い入れなど、他社では聞かないようなことを聞くんですか。

嵜本 はい、どんどん聞きます。スタッフそれぞれが色々な引き出しの中から、そのお客さまが求めている質問や説明をさせていただき、持ち込まれた商品の中で高く買ってほしいモノ、そうでもないモノをしっかりヒアリングしてトータルで顧客満足を追求していく方法ですね。

田岡 ヒアリングの仕方は、教育されるんですか。

嵜本 はい。新人研修から価格だけで勝負しないことを教えて、現場でいかにお客さまの話を聞くかを教育しています。

田岡 そういった方針にしたのは、ご自身の経験からですか。

嵜本 そうですね。私自身がコンシェルジュ(鑑定士)だったとき、「他社より3万円低くても、あなたに売る」と言ってもらえた経験が何回もあったんです。そこで学んだのは、お客さまは価格だけで意思決定しているのではないということです。

田岡 来店したものの、まだ売るかどうかを決めていないお客さまもいますよね。その成約率が御社は高いと聞いたのですが、いかがですか。  
 
田岡 敬
元エトヴォス 取締役 COO
リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。2020年4月退任。

嵜本 成約率は高い方だと思います。またリピーターも多いことから、接客の満足度の高さが表れていると考えます。

田岡 中古品の買い取りは、売りたいお客さまがリピートするモデルですよね。昔で言えば、旧家の蔵を見せてもらって収蔵品を丸ごと査定するという世界に近くて、信頼されると買い取り高が一挙に増え「LTV(ライフタイムバリュー)」が高くなるビジネスモデルですね。

嵜本 はい、一回目に来店いただいたときに、いい体験が得られると人は他店舗に浮気しにくいんです。なので、そこはかなり意識的に教育をしています。

田岡 そうなると採用も重要だと思うんですが、スタッフのホスピタリティは、どのように見極めるんですか。

嵜本 そこは、考え方を見るようにしています。自分の利益ばかりを優先している人は、面接時の言葉にもその考え方が出てしまうんです。あとは、異業種からでも、お客さまと話をしたり、楽しませたりするのが好きな方を採用しています。

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