「元書店員マーケター」オススメの一冊 #10

「数字力はどう伸ばせる?」数字が苦手なマーケター必読の一冊【書評】

前回の記事:
デジタルマーケティングの教科書として、推薦したい2冊
 

ファッションと数字の関係を文庫で学ぶ


 私自身はファッションが苦手だ。特にデザインやセンスといった感覚論になると、まったく話についていけない。でも、財務諸表やマーケティング指標の数値を用いてなら、何とかファッションも説明できる。

 私はキーワードとして「お客さまと、マーケティングと、数字と」をいつも頭の中に置いているが、そうした思考で書店の棚を見ていたときに見つけたのが今回の書籍『数学女子智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』だ。まさに、筆者の苦手な領域をズバリと「見える化」する手法を教えてくれる。
 
 物語の舞台は、中堅アパレル企業「ブライトストーン」。全国に10店舗を構え、年商は5億円。取り扱いブランドは20~30代女性向けで、業績は年々上がっている。その社長の佐野賢太郎が、コンサルティング会社に勤める数字に強いリケジョの柴崎智香をヘッドハンティングするシーンから始まる。そのストーリーはブライトストーン営業部のリーダーであり、ファッションリーダーでもある木村斗真とのやり取りを中心に進んでいく。

 柴崎「なぜそこまで『数字」というものに対してネガティブに思っているのですか?」
 木村「なんでって言われてもわかんねーよ。感覚的に、嫌なんだよ」
 柴崎「いえ、感覚的にではなく論理的な理由があります」
 木村「あ?」
 柴崎「溺れてしまうからです。数字に」


 このやり取りの後、営業部で使わないデータを捨てる活動が始まる。その判断基準は「把握・評価・予測」の3つに使えるかどうかで、どの数字もこの3つの下に収めることで管理できるというのだ。 

 柴崎と木村のやり取りは、誰しも心当たりがあるのではないだろうか。筆者自身もセブンネットショッピング時代に財務諸表と経営数字を叩き込まれるまで、「数字は面倒だ」と思っていた。

 木村「新宿店の総客数は表参道のおよそ130%、平均単価は…えっと、逆に70%くらいかな。だから、表参道店に近い売り上げにするためには、単価や枚数を増やす施策が必要。以上!」
柴崎「あら、数字をちゃんと使ってくれましたね(ニコッ)」「これだけでは、何もわかりません(ニコッ)」


 ここから店の平均値だけを知っていても、顧客の姿が全く見えていないと気付く。標準偏差からバラツキを知ることで、初めて見えることなのだ。平均単価1万円だとしても、誰もが1万円分を買うわけではなく、単価の高いロイヤル顧客もいれば、その反対もいる。さらには購買頻度も違う。平均を知ることは重要だが、あわせて顧客分析をきちんと行わないと施策にはつながらないのだ。

 その他にもドット柄ブラウスを主力に据えたときのコーディネート提案をどうするのかを感覚ではなく相関係数を使って説明していく。



 この相関関係から、ショートパンツとの組み合わせを確認し、さらに上下だけで見ていた係数を、他のファッションアイテムも含めて見ることで「ストール0.8」という高い併売確率を持つ商品を発見する。そして、実は同時購入したからといって、一緒にコーディネートするとは限らない傾向も相関係数から証明していく。筆者がコンサルティング先で取り組んでいる、新規/既存顧客の分析そのもののだ。

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