マーケターズ・ロード 紺野俊介 #06

最終回・アイレップが成長できた背景には「文化」の形成があった【前・アイレップ社長 紺野俊介】

前回の記事:
私のインターネット広告業界の2人のボス(高山雅行、矢嶋弘毅)について【前・アイレップ社長 紺野俊介】

現場が自ら判断・行動できるようになること

 アイレップが成長できた背景には、文化をしっかり形成してきたことが大きいと思います。

 文化形成のためのポイントのひとつが人事評価制度です。その基準では、一貫してコンピテンシー(高い成果や大きな業績に結びつく行動特性)やプロセスを重視してきました。

 私は1円以上のすべての稟議書に目を通していましたし、外部からのお問い合わせの一次窓口となって、それぞれの案件を誰に対応してもらうかを決めていましたが、業務における判断の権限が私にあったわけではありません。

 むしろ、現場が自ら判断・行動できるようにすることこそ、文化の浸透・定着において重要なことだと考えていました。例えば、何らかのトラブルが発生した際に、「社長に確認しないと、1円も補填できません」と言う担当者を、クライアントはパートナーとして見てくれるでしょうか。



 アイレップならどう考えるかという文化を浸透させ、「こういうケースならば、アイレップとして間違いなく補填します」「このようなケースでは、アイレップとして補填は難しいです」と、その場でクライアントとコミュニケーションをとって解決に向かっていける風土をつくるよう、努めてきました。

 自社の売上や利益を上げるために商品を売るのではなく、お客さまの成果につながることをする。お客さまをないがしろにした、予算消化を促すような運用は提案しない。このポリシーを、仕組みで支えてきました。

 

優秀な人でも落とすこともあった採用方針

 評価制度に並ぶ、もうひとつの仕組みが採用活動です。2期前まで新卒/中途を問わず、すべての最終面接を私が担当していました。

 ポイントは、「自分」ではなく、「世の中」や「お客さま」「消費者」を主語にして仕事がしたい人かどうかということ。自社だけが成長する、自分だけが評価されることを良しとする価値観を持った人は、アイレップではない会社に行ったほうが輝ける可能性が高いと思います。ですから、「優秀だな」と感じた人を落とすことも少なくありませんでした。

 アイレップは、顧客のデジタルマーケティングを支えるパートナーです。

 「この人と仕事をしてよかった」「この人と仕事がしたい」とお客さまに言ってもらいたい。そういう価値観を持つ人の集団をつくることが、文化を形成する上で、とても大きな要素だと考えていました。

 仕組みとしては、教育ならびに情報のシェアの仕方も挙げられると思います。自分の成果や、つくった仕組みを仲間にシェアすることが、その人への評価・賞賛につながるようにしていました。

 例えば、半年に一度のキックオフで行っていたプレゼン大会。自分が担当したコンサルティングの事例や、普段お客さまとどのようにコミュニケーションをしているかを、全社員の前で発表し、社員が投票し、優秀者を決定します。

 また、対顧客・対ユーザーに価値提供するための仕組みをドキュメントにまとめ、他の社員に共有する機会があり、特に良い仕組みを毎月評価する表彰制度を設けています。自分の行動をシェアすると、会社からも認められる――それを制度として実現してきたのです。

 最終的に、顧客やユーザーに、その手前では周りの仲間に貢献する人が評価される。年功序列でも、性別でも、担当アカウントの規模でもない評価軸を設け、それに基づいて文化を形成してきたことが、アイレップのほかにない最大の強みになっていたと思います。

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